POCT(Point of Care Testing)の現状と展開
エスティーアイ インターナショナル 石神 達三

 糖尿病患者の血糖モニター検査に代表されるポイント・オブ・ケア検査(Point-of-Care Testing, POCT)が次第に普及の兆しをみせている。昨年度のアメリカ臨床化学会(AACC, New Orleans)でもPOCT試薬・機器の展示が目立ち、図書コーナーでも各種のPOCT関連書籍が並んでいるのが目についた(文献1,2)。POCTの定義は広範にわたり、診療・看護現場で医療スタッフが実施する簡易検査ならびに患者自身が在宅で実施(Home Testing)する自己検査(Self Testing)が包含される。POCTの概念が導入されてから10年以上が経過しようとしており、簡易法血糖(グルコース)測定はPOCTとしての地位を確立し、現在の世界市場は、2,000億円をこえ、在宅患者自身が検査を実施する自己検査もかなりの比率を占めるに至っている。また、簡易自己測定の妊娠検査も現在では広義のPOCTの定義に含まれるものとなり、薬局等で販売される非処方(Over-the-Counter, OTC)診断薬としての地位を確定している。

 その後多数の疾患領域でのPOCTが開発され、この領域の技術・製品開発に取り組む企業の数も急速に増加の道をたどっている。迅速、簡易、小型機器を必須とするPOCTに利用される測定用プラットフォーム技術にも各種のアイデアが生まれ、日進月歩の改良が加えられている。また、昨今のセンサー技術(Sensor Technology)と検査結果の伝達、管理、精度管理に必要な情報通信技術(Information Technology, IT)の著しい進化とともに、第3世代のPOCT製品が生まれ出ようとしている。また、マイクロチップを利用したセンサー技術は遺伝子検査への適用が急速に進み、新しい革新的検査の登場が間近となっている。

 POCT測定系の開発は一貫してアメリカのベンチャー企業がその中心的担い手となって発展してきた。1990年代に入って、大手診断薬企業がこぞってこれらのベンチャー企業との提携策、あるいは吸収合併策を通じてPOCT製品開発に参入した。現在は優良ベンチャー企業と大手診断薬企業の2極で開発が進行している(文献3,4)。

 POCTの概念は、1980年代後半にアメリカで導入された。POCTは「Point-of-Care Testing」、つまり「診療・看護などの医療現場での臨床検査」という意味であり、病院検査室あるいは外注検査センター以外の場所で実施される全ての臨床検査を包含している。当初はNear Patient Testing(NPT)とかBedside Testingという言葉などが用いられたが、1990年代に入ってPOCTという言葉に統一された。家庭検査(Home Testing)には糖尿病患者の血糖モニターなど、在宅医療に関連した本来の意味でのPOCTと、排卵・妊娠検査などの自己検査が含まれるが、現在では後者も含めてPOCTとして議論されることが多い。

 POCT実施の対象となる医療(診療・看護)現場としては広範なケースが想定される。病院では、検査室で実施される検査以外の全ての検査がPOCTの定義に該当するわけであるが、外来での診療中に直ちに結果を得ることを主眼とした簡易・迅速検査、および入院患者のベッドサイドでリアルタイムに測定結果をモニターする検査が主体となる。この他に、救急救命センター、ICU・CCU、手術室などでの患者モニターもPOCT利用の対象として重要である。

 今回は、POCTの現状と今後に関して、演者の最近の総説(文献3,4)を基に、概説を試みることとしたい。

文献:
1) Karen Bourlier, The Hitchhiker's Guide to Point-of-Care Testing, AACC Press, 1998.
2) Glen Hortin, Handbook of Bedside Glucose Testing, AACC Press, 1998.
3) ポイント・オブ・ケア市場の展望と戦略, 矢野経済研究所, 1998.
4) 石神達三, ポイントオブケアテスティングの展開, Medical Technology, 27(10), 887 (1999).