第22回千葉県臨床衛生検査学会抄録(平成13年2月11日開催)



当院において分離されたO157以外のVero毒素産生性大腸菌(VTEC)について

○村田正太 久保勢津子 渡邊正治 斉藤知子
 宮部安規子 菅野治重 野村文夫*
 (千葉大学医学部附属病院検査部
   同臨床検査医学講座*)

【目的】VTECの血清型はO157以外にも存在し、それらによる感染事例が報告されている。今回我々は3症例よりO157以外のVTECを分離し、日常検査で使用しているVero毒素(VT)を検出する逆受身ラテックス凝集反応を利用したキットで凝集の判定が困難な1例を経験し若干の知見を得たので残り2例の検査成績と共に報告する。
【材料・方法】当検査室に提出された@市中感染疑いの糞便2例とA留置カテ尿1例であり、薬剤感受性検査対象株の時は自動同定薬剤感受性検査装置WalkAway(DEDA)を用い、VTの検出にはBHIブロスで一夜振とう培養した培養液中のVT価を大腸菌ベロトキシン検出用キット(デンカ生研)で測定した。
【結果】@:1例はVT1のみ産生のO117:Hutが分離され、もう1例はVT2のみ産生のO114:H18が分離された。A:感受性検査を行いWalkAwayからのコメントでO157の疑い有りとなり、血清型を調べO157ではなかったが確認のためVT価の測定を行いVT2にかすかな凝集があり判定が困難であった為、千葉県衛生研究所に精査を依頼し、VT2のバリアントであるVT2vp1と判明し血清型はO74:H-であった。なお@の2株の血清型も同所に精査を依頼した。
【まとめ】この事例よりVT2vp1 は今回使用したキットでの反応性が悪いことが示唆され、判定に苦慮することが予想され他施設への精査を依頼することが必要となった。また3類感染症の腸管出血性大腸菌感染症はVTECによる感染症を指すため血清型の如何によらずVTの検出が必要である。(御指導頂いた千葉県衛生研究所の内村眞佐子先生に深謝致します。)
急激な経過を示したVibrio vulnificus感染症の1例

○佐藤正一 三上昌章 菊地広子 鈴木幸子
 高橋美由紀 小笠原英樹 丸孝夫
(千葉県救急医療センター)

Vibrio vulnificus感染症は,肝硬変などの基礎疾患を有する患者が,夏期に生の魚介類摂取や海水中で創部から感染する日和見感染症である.今回我々は,左肘部腫脹を訴え,ショック状態となった患者皮下組織よりV.vulnificusを分離した症例を経験したので報告する.
【症例】患者は54歳,男性.8年前にC型肝炎に感染し肝硬変となる.平成12年6月,魚を生食,翌日,左肘部腫脹,疼痛より近医に入院.ショック状態となり当センターへ転院.入院時,高度の代謝性アシドーシス,白血球減少を示し,血液透析およびAmpicillin(ABPC)2g投与行ったが,第3病日に多臓器不全,ショックから回復できず永眠.
【検査法】第2病日に提出された皮膚組織液および皮下組織のGram染色では,陰性のやや湾曲した桿菌が見られ,培養ではチョコレート寒天培地に直径4mm程度の灰白色,正円,S型のコロニーを少数認めた.同定検査は簡易同定キットで行い,生化学的性状からV. vulnificusと同定した.また0%・3%・8%・10%の好塩性試験を行ったところ3%のみで発育を認め,PCRおいてもV. vulnificusであることを確認した.
【考察】V.vulnificus感染症は,本邦では1978年に最初の敗血症例が報告され,1999年までに100例あまりが西日本を中心に報告されている.経過は急激で4割が3日以内に死亡する劇症型を呈する.また,肝疾患などをもつ患者に特徴的な皮膚病変を示すものである.本症例では,血液像所見で激烈な細菌感染症を思わせる好中球および単球の貪食空砲が多数認められた.救命率を上げるためにも,速やかな皮膚病変部滲出液のGram染色や血液培養ならびに末梢血液像検査を実施し,早期診断および治療を心がける必要がある.
043-279-2211(内430)

制作・著作:社団法人千葉県臨床衛生検査技師会