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感染症の新たなる対応 『感染症法の改定について』 

緊急時の対応を強化、疾病分類の見直しも

 

1998年に制定された“感染症予防法及び感染症の患者に対する医療に関する法律;以下 感染症法”及び検疫法の一部を改正する法律が2003年10月16日に公布され、11月5日に施行されました。(平成15年法律第145号)。また、法の改正に伴い関連した政令(平成15年政令第459号※)及び省令が発令されました。

これは2003年8月21日の厚生労働省厚生科学審議会感染症分科会「感染症対策の見直しについて〔提言〕」が答申されたことを踏まえ、わが国での重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行や感染症テロリズム(バイオテロ)の発生に備え、危機管理の観点から対策を強化しているのが特徴です。(-1 参照

まず「緊急時における対応」では、旧法で都道府県知事が行うとされている感染症の発生状況の調査について、緊急時には厚生労働大臣が自ら実施できるように規定されています。また、都道府県知事が行う事務(健康診断の命令、入院勧告など)に対しても必要な指示を行うことが出来るようになりました。

「対象疾病、疾病分類の見直し」は、一般の医療機関にも直接関係する部分で追加・変更されています。具体的には、SARSや痘そう(天然痘)などの感染症を感染症法の対象として1類感染症に追加すること。動物由来感染症について感染源となる動物の輸入規制、消毒、ねずみ・蚊の駆除等の対物措置ができるようにするため、従来の旧4類感染症に分類されていた疾病を新4類感染症とし、医師の保健所への届出も直ちに行うようにするなど、対策の強化が図られました。一方、従来どおり感染症発生の動向調査のみの対象疾病は、旧4類感染症から新5類感染症に分類されることになりました(-2,3,4 参照)。

厚生労働省は改正法の施行に併せ、国が定める基本指針を近く改正し、それを基に各都道府県では予防計画の改正を行うことになります。また、厚生労働省は各対象疾病の定義、報告基準などを新たに定め、全国に示す予定にしています。 

 

-  〈感染症法の改正の主なポイント〉

1.

緊急時における感染症対策の強化

厚生労働大臣は、緊急の必要があると認めるときは、自ら感染症の発生状況等の調査を行うことができることとする。

厚生労働大臣は、緊急の必要があると認めるときは、都道府県知事等が行うこととされている事務に関し、必要な指示をすることができることとする。

基本方針、予防計画に緊急時における計画策定に関する事項を追加する。

2.

対象疾病、疾病分類の見直し

一類感染症の対象疾病を追加し、四類感染症の類型を見直す。

3.

動物由来感染症対策の強化

感染症を感染させるおそれがある動物及びその死体を輸入する者は、感染症にかかっていない旨の証明書を添付するとともに、種類、数量、輸入の時期などを届け出なければならないこととする。

4.

検疫との連携

都道府県知事等は、検疫所長から検疫感染症に感染したおそれのある者であって健康状態に異常が生じた者に係る通知を受けたときは、当該者に対し必要な質問または調査を行うことができることとする。

5.

罰則

3、4に関して違反した場合の罰則を規定する。

                                            (出典: 日本醫事新報 No.4150(2003年11月8日)より )       

 

 

-2 〈感染症法改正における感染症の類型の性格〉                           

 

性     格

1類感染症

感染力、罹患した場合の重篤性等に基づく総合的な観点からみた危険性が極めて高い感染症。

患者、疑似患者及び無症状病原体保有者について入院等の措置を講ずることが必要。

特定感染症指定医療機関、第1種感染症指定医療機関で対応する。

2類感染症

感染力、罹患した場合の重篤性等に基づく総合的な観点からみた危険性が高い感染症。

患者及び一部の疑似症患者について入院等の措置を講ずることが必要。

特定感染症指定医療機関、第1種感染症指定医療機関、第2種感染症指定医療機関で対応する。

3類感染症

感染力、罹患した場合の重篤性等に基づく総合的な観点からみた危険性は高くはないが、

特定の職業への就業によって感染症の集団発生を起こしうる感染症。

患者及び無症状病原体保有者について就業制限の措置を講ずることが必要。

新4類感染症

動物、飲食物の物件を介して人に感染し、国民の健康に影響を与えるおそれがある感染症

(人から人への伝染はない。)。

媒介動物の輸入規制、消毒、物件の廃棄等の物的措置が必要。

5類感染症

国が感染症の発生動向の調査を行い、その結果等に基づいて必要な情報を国民一般や医療関係者に情報提供・公開していくことによって、発生、まん延を防止すべき感染症。

指定感染症

     既知の感染症のうち上記1〜3類に分類されない感染症であって、1〜3類に準じた対応の必要性が生じた感染症。

     政令で1年間に限定して指定された感染症。適応する内容は政令で規定される。

新感染症

     人から人に伝染すると認められる疾病であって、既知の感染症と症状等が明らかに異なり、当該疾病に罹患した場合の症状の程度が重篤であり、かつ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの。

     特定感染症指定医療機関でのみ対応する。

(出典: 日本醫事新報 No.4150〔2003年11月8日〕より一部改変 )

 

-3 〈感染症法改正における類型別の主な措置〉

1類感染症、2類感染症、3類感染症については、これまでと変らない。

4類のうち、消毒、動物の輸入禁止等の措置が必要なものを新4類感染症(全数報告)とし、旧4類と同じ対応のものを新5類感染症《全数及び定点報告》とする。

 

1類感染症

2類感染症

3類感染症

4類感染症

5類感染症

疾病名の規定方法

法律

法律

法律

政令

省令

疑似症患者への適用

×

×

×

無症状病原体保有者への適用

×

×

×

×

積極的疫学調査の実施

医師の届け出

○(直ちに)

○(直ちに)

○(直ちに)

○(直ちに)

○(7日以内)

獣医師の届け出

×

健康診断の受診の勧告・実施

×

×

就業制限

×

×

入院の勧告・措置、移送

×

×

×

汚染された場所の消毒

×

ねずみ・昆虫等の駆除

×

汚染された物件の廃棄等

×

死体の移動制限

×

×

生活用水の使用制限

×

×

建物の立入制限・封鎖

×

×

×

×

交通の制限

×

×

×

×

動物の輸入禁止・輸入検疫

×

(出典: 日本醫事新報 No.4150〔2003年11月8日〕より一部改変)     

*:無症状病原体保有者は保健所等が行う疫学調査、健康診断等により確認された場合をいい、一般の医療機関における診断行為ではありません。ただし、無症状病原体保有者として確認された場合には1類、2類、3類及び4類感染症についても届け出の対象になります。


-4 〈感染症法改正後の類型別対象疾患〉

                          (太字部分が今回の変更ヵ所)  

1 

エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱

 

追加: 重症急性呼吸器症候群(病原体がSARSコロナウイルスであるものに限る。)、痘そう(天然痘)

2 

急性灰白髄炎、コレラ、細菌性赤痢、ジフテリア、腸チフス、パラチフス

3 

腸管出血性大腸菌感染症

4類

ウエストナイル熱(ウエストナイル脳炎を含む)、エキノコックス症、黄熱、オウム病、回帰熱、Q熱、狂犬病、コクシジオイデス症、腎症候性出血熱、炭疽、つつが虫病、デング熱、日本紅斑熱、日本脳炎、ハンタウイルス肺症候群、Bウイルス病、ブルセラ症、発しんチフス、マラリア、ライム病、レジオネラ症

 

追加: E型肝炎、A型肝炎、高病原性鳥インフルエンザ、サル痘、ニパウイルス感染症、野兎病、

      リッサウイルス感染症、レプトスピラ症

 

変更: ボツリヌス症(「乳児ボツリヌス症(4類全数)」を変更)

5類

(全数)アメーバ赤痢、ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く。)、クリプトスポリジウム症、クロイツフェルト・ヤコブ病、劇症型溶血性レンサ球菌感染症、後天性免疫不全症候群、ジアルジア症、髄膜炎菌性髄膜炎、先天性風しん症候群、梅毒、破傷風、バンコマイシン耐性腸球菌感染症

 

(定点)咽頭結膜熱、インフルエンザ(高病原性鳥インフルエンザを除く。)、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎、急性出血性結膜炎、クラミジア肺炎(オウム病を除く。)、細菌性髄膜炎、水痘、性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、手足口病、伝染性紅斑、突発性発しん、百日咳、風しん、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、ヘルパンギーナ、マイコプラズマ肺炎、麻しん(成人麻しんを含む。)、無菌性髄膜炎、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、薬剤耐性緑膿菌感染症、流行性角結膜炎、流行性耳下腺炎、淋菌感染症

 

追加: バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症(全数)、RSウイルス感染症(定点)

 

変更: 急性脳炎(ウエストナイル脳炎及び日本脳炎を除く。定点把握から全数把握に変更)、

      尖圭コンジローマ(定点)(「尖形コンジローム」から変更)

                               (出典:日本醫事新報 No.4150〔2003年11月8日〕より )

 

〜〜〜〜※感染症法改正施行令〔平成15年政令第459号〕(厚生労働省)2) 〜〜〜〜

1.重症急性呼吸器症候群を指定感染症として定める政令〔平成15年政令第304号、第305号〕の廃止

2.獣医師の届出

  政令で定める感染症及び動物は

  @エボラ出血熱   サル  Aマールブルグ病  サル  Bペスト  プレーリードッグ

  C重症急性呼吸器症候群(病原体がSARSコロナウイルスであるものに限る)

            イタチアナグマ、タヌキ及びハクビシン

3.動物の輸入に関する措置(輸入禁止指定動物)

  @イタチアナグマ、Aコウモリ、Bサル、Cタヌキ、Dハクビシン、Eプレーリードッグ、Fヤワゲネズミ

4.疑似症患者を患者とみなす感染症

  1類感染症のすべて、及び2類感染症のうち、コレラ、細菌性赤痢、腸チフス及びパラチフスとする。

 

〜〜〜〜感染症指定医療機関の整備)〜〜〜〜〜

 新型肺炎「重症急性呼吸器症候群」(SARS)に伴う混乱を踏まえ、厚生労働省は危険性が極めて高い感染症患者を入院させることができる「特定感染症指定医療機関」が現在、国立国際医療センター(東京)と市立泉佐野病院(大阪)の2カ所しかないため、新たに成田空港と福岡空港の周辺にも整備する方針を固めました。また既に指定している第2種感染症指定医療機関のうち、陰圧病室を有する医療機関の同意を得て第1種の基準に合致するように整備に努めています。


〜〜〜〜感染症発生の届出5)〜〜〜〜

別記様式1   一類、二類及び三類感染症発生届出票・・・・・・・・・診断後直ちに

別記様式3   四類感染症発生届         ・・・・・・・・・診断後直ちに

別記様式5−1 五類感染症発生届(全数)《下記の3疾患を除く》・・・・診断から7日以内

別記様式5−2 クロイツフェルト・ヤコブ病発生届 ・・・・・・・・・診断から7日以内

別記様式5−3 後天性免疫不全症候群発生届   ・・・・・・・・・・診断から7日以内

別記様式5−4 先天性風しん症候群発生届    ・・・・・・・・・・診断から7日以内



五類感染症定点 ・・・・週単位報告疾患・・・・・毎週月曜日《前週の月〜日曜分》

五類感染症定点 ・・・・月単位報告疾患・・・・・月初め《前月分》

 

○届出表(別記様式)、届出基準等の関連文書は最寄りの保健所か、東京の場合には東京都感染症情報センター

のホームページから入手できます。http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/survey

○届出表送付先 最寄りの保健所(感染症担当)にFAXで送付してください

 

〈参考資料〉

〜〜〜〜感染症法改正で新たな対象疾患の概説6,7)〜〜〜〜 

 

1.重症急性呼吸器症候群 (病原体がSARSコロナウイルスであるものに限る)           

《定義》SARS関連コロナウイルスの感染による重症急性呼吸器症候群であります。            

《臨床的特徴》多くは27日間、最大10日間の潜伏期間の後に、急激な発熱、咳、全身倦怠、筋肉痛などのインフルエンザ様の前駆症状が現れます。2〜数日間で呼吸困難、乾性咳嗽、低酸素血症などの下気道症状が現れ、胸部CT,X線写真などで肺炎像が出現します。肺炎になった者の80〜90%が1週間程度で回復傾向になりますが、10〜20%が急性呼吸窮迫症候群(Acute respiratory distress syndrome :ARDS)を起こし、人工呼吸器などを必要とするほど重症になります。致死率は10%前後とされています。

重症急性呼吸器症候群〔Severe acute respiratory syndromeSARS〕はSARS関連コロナウイルス〔SARS-associated coronavirus〕を病因とする感染症であり、非定型肺炎を特徴とします。2002年11月以降の中国、香港などでの流行を受けて、2003年4月に新感染症として通知され、同7月に指定感染症に指定されましたが、今回の改正で1類感染症に追加されました。感染患者と濃厚に接触する医療関係者においては飛沫感染予防策と接触感染予防策を行い、念のために空気感染予防策も要求されます。一般市民は患者の同居家族を除いて、密室内〔航空機など〕の長時間濃厚接触がない限り、日常生活においてはヒト−ヒト感染する危険性は低いとみられています。詳しい内容は「医療機関におけるSARS対応マニュアル」8)、あるいは日本臨床微生物学会と(社)日本臨床衛生検査技師会が共同で作成した「臨床材料の取扱いと検査法に関するバイオセーフティマニュアル――SARS疑い患者――Ver.1」を参照ください9)

 

2.痘そう

《定義》痘そうウイルスによる急性の発疹性疾患であります。現在、地球上では根絶された状態にあります。

《臨床的特徴》主として飛沫感染によりヒト−ヒト感染します。患者や汚染された物品との直接接触により感染することがあります。エアロゾルによる感染の報告がありますが、まれです。潜伏期間はおよそ12日間(7〜

17日間)で、感染力は病初期(ことに4〜6病日)にもっとも強く、発病前は、感染力は無いと考えられています。すべての発疹が痂皮となり、これが完全に脱落するまでは感染の可能性があります。

痘そう〔天然痘、Smollpox〕は、ポックスウイルス科オルソポックスウイルス属のVariola virus ( Smollpox virus:天然痘ウイルス)を病因とする感染症で、全身に広がる丘疹を特徴とし、伝染性が極めて強い。しかも感染すると死亡率も高く過去3000年以上にわたり人類にとって、もっともおそれられていた感染症でした。

1979年10月にWHOは世界的な根絶宣言を発表しましたが、テロリストに悪用されるおそれが危惧され、警戒が必要と判断されて今回の改正で1類感染症に追加されました。感染患者、疑似患者及び無症状病原体保有者に接する際には厳重な空気感染予防策と接触感染予防策が要求されます。

 

3.E型肝炎

《定義》E型肝炎ウイルス(Hepatitis E virus:HEV)を病因とする急性ウイルス性肝炎です。従来では急性ウイルス性肝炎の一部として旧4類感染症に分類されていましたが、今回A型肝炎と同様に独立して新4類感染症に指定されました。わが国では、これまでの報告のほとんどは発展途上国などの流行地域での海外感染例でありましたが、2002年から国内感染例の報告が増加しています。経口感染による肝炎で、糞口感染で伝播します。また、しばしば貝類の摂食で流行がみられます。HEVはカリシウイルス科カリシウイルス(Calicivirus )に暫定的に分類されおり、自然宿主はヒトと霊長類であります。

《臨床的特徴》潜伏期は2〜8週間と考えられています。不顕性感染もみられますが、その頻度は明確ではありません。流行時には15〜40歳に発生頻度のピークがあります。小児では黄疸がみられないことが多く、成人では他の肝炎、とくにA型肝炎との鑑別が困難です。一般的には発熱、全身倦怠感、肝腫大、肝部圧痛、関節痛、食欲不振、嘔気、嘔吐などがみられます。通常1カ月程度の経過で軽快し、慢性化しない予後良好な肝炎です。ただ妊婦(第3三半期)が感染すると劇症肝炎となり、その死亡率も高く20%に達するといわれています。また、発症から肝性脳症にいたる3週間の間に診断することは困難です。特異的な治療法がなく、対症療法が中心です。

診断には、抗HEV−IgM抗体、抗HEV−IgG抗体の酵素免疫測定法があります。また、PCR法による血清、糞便、肝組織中のHEV−RNAの検索も行われます。

 

4.A型肝炎

《定義》A型肝炎ウイルス(Hepatitis A virus:HAV)による急性ウイルス性肝炎です。わが国では衛生状態の向上とともに患者数は減少していますが、最近でも年間500例前後の報告があり、そのほとんどが国内感染例であります。HAVはピコルナウイルス科ヘパトウイルス属(genus Hepatovirus )のRNAウイルスで、従来急性ウイルス性肝炎の一部としてE型肝炎と同様に旧4類感染症に分類されていましたが、今回独立して新4類感染症に指定されました。

《臨床的特徴》汚染された食品や飲料水などを介して、通常経口感染により伝播します。しかし、一部ですが性感染症としても伝播する場合があります。潜伏期間は平均4週間程度であります。感染期間はウイルスが糞便に排泄される発症の3〜4週間前から発症後数週間にわたることがあります。主な臨床症状は全身倦怠感、食欲不振、黄疸、肝腫大などの肝症状がみとめられますが、一般に予後が良好で慢性化することはありませんが、まれに劇症化します。今のところ、特異的な治療法がなく対症療法が中心です。

 診断には、発病初期の血清を用いた抗HAV−IgM抗体の酵素免疫測定法が一般的であります。

 

5.高病原性鳥インフルエンザ

《定義》鳥インフルエンザウイルスのうち、特にH5及び(又は)H7亜型のヘマグルチニンを持つものはニワトリに対する病原性が強く、ヒトに対しても強い病原性を獲得する可能性が高いです。

《臨床的特徴》潜伏期間は通常のインフルエンザと変わりなく、1〜3日間と考えられています。症状は突然の高熱、咳などの呼吸器症状の他、重篤な肺炎、全身症状を引き起こします。

高病原性鳥インフルエンザ(Highly pathogenic avian influenza )は、病原性の高いAvian influenza virusによるトリ(ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ハトなど)の感染症ですが、近年まれにヒトにも感染して死亡する例が報告されています。A型インフルエンザにはH1〜15、N1〜9の亜型がありますが、ヒトに頻繁に感染するのはH1〜3、N1〜2です。その他は通常ヒトに感染しないエビアンウイルスと呼びます。

1997年、香港でA(H5N1)型ウイルスが19人に感染し、このうち7人が死亡しました。ヒト−ヒト感染は認められませんでしたが、流行を防止するために家禽150万羽が処分されました。その後1999年香港でA(H9N2)型、2003年中国の福建省でSARSが話題になっているころにA(H5N1)型が、さらに2003年春オランダ、ベルギー、ドイツの家禽にA(H7N7)型が流行し、養鶏業者の間で本ウイルスによる結膜炎が集団発生してヒト−ヒト感染もみられました。対策のために家禽3000万羽が処分されました。

 エビアンウイルスが遺伝子の変異によりヒトへの感染力を強めた場合には、インフルエンザの大流行が予想されるため世界的に警戒しています。

 

6.サル痘

《定義》サル痘ウイルス(Monkeypox virus )による急性発疹性疾患であります。野生動物との接触が多い西アフリカ、中央アフリカの熱帯雨林で多くみられます。

《臨床的特徴》げっ歯類やサルなどの野生動物、それらから感染したペットに咬まれる、血液、体液、発疹などに触れることで感染します。ヒト−ヒト感染はまれですが、飛沫による感染、あるいは体液、衣類、寝具などとの接触により感染することがありえます。潜伏期間は7〜21日間《大部分は10〜14日間》で、臨床症状は発熱、不快感、頭痛、筋肉痛、発疹、倦怠感など、次第に痘そうとよく似た丘疹、膿疱などを形成します。また、傷などから侵入するので、局所リンパ節の腫脹がみられます。

サル痘(Monkeypox)は天然痘ウイルスと同じポックスウイルス科オルソポックスウイルス属に属するMonkey pox virus を病因とする感染症で、1996〜97年、アフリカ・コンゴ共和国で92人の集団感染が発生し、このうち3人が死亡しました。2003年、米国でアフリカ・ガーナ共和国から輸入された動物(アフリカオニネズミ、ヤマネなど)に由来するプレーリードッグを介したヒトの集団感染が起こり、そのため今回の改正で新4類感染症に追加されました。サル痘はアフリカにおいて致死率が1〜10%と報告されており、天然痘よりは低いとされていますが、近年ヒト−ヒト感染が少数例ですが増加傾向にあります。

 

7.ニパウイルス感染症

《定義》ニパウイルス(Nipah virus)による感染症で、発熱、倦怠感、インフルエンザ様症状を呈し、一部は重症の脳炎を発症します。

《臨床的特徴》感染経路は感染動物の体液や組織との接触によると考えられています。ヒト−ヒト感染は報告されていません。通常、発熱と筋肉痛などのインフルエンザ様症状を呈し、その一部は意識障害、痙攣などを伴い、脳炎を発症します。

 ニパウイルス(Nipah virus)はパラミクソウイルス科パラミクソウイルス亜科ヘニパウイルス属(genus Henipavirus)のRNAウイルスで、このウイルスによる急性脳炎が1998〜99年マレーシアで初めて報告され、患者の居住地にちなんで命名されました。ニパウイルスはオオコウモリ(flying foxes, fruit bats )を自然宿主とし、山辺の洞穴に生息していたオオコウモリから近隣の養豚所のブタを介して養豚業者258人が感染し、このうち98人が死亡しました。ブタ約100万頭を処分してようやく終息し、その後は話題になっていませんが、死亡率が高いことから今回の改正で新4類感染症に追加されました。ニパウイルス感染症では、4日〜2カ月間の潜伏期を経て、発熱、頭痛、眩暈、嘔吐を生じ、急速に重症の脳炎に陥り、死に至ります。感染したブタの尿、唾液、気道分泌物の取り扱いに注意する必要があります。

 

8.ボツリヌス症

《定義》ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が産生するボツリヌス毒素、またはC.butyricum, C.baratii などが産生するボツリヌス毒素により発症する神経・筋の麻痺性疾患です。今回の改正で「乳児ボツリヌス症」から「ボツリヌス症」全般に変更されました。

《臨床的特徴》ボツリヌス毒素、またはそれらの毒素を産生する菌の芽胞が混入した食品の摂取などによって発症します。潜伏期は毒素を摂取した場合(食餌性ボツリヌス症)には、5時間〜3日間(通常12〜24時間)とされています。神経・筋接合部、自律神経節、神経節後の副交感神経末端からのアセチルコリンの放出阻害により、弛緩性麻痺が生じ、種々の症状《全身の違和感、複視、眼瞼下垂、嚥下困難、口渇、便秘、脱力感、筋力低下、呼吸困難など》が出現し、適切な治療を施さない重症患者では死亡する場合があります。

発症機序の違いにより、

1)食餌性ボツリヌス症(ボツリヌス中毒)(食品中でボツリヌス菌が増殖して産生された毒素を経口的に摂取することによって発症)、

2)乳児ボツリヌス症(1歳以下の乳児が離乳食として投与された蜂蜜、コーンシロップ中などの菌の芽胞を摂取することにより、腸管内で芽胞が発芽し、産生された毒素によって発症)、

3)創傷ボツリヌス症(創傷部位で菌の芽胞が発芽し、産生された毒素により発症)、

4)成人腸管定着ボツリヌス症(ボツリヌス菌に汚染された食品を摂取した1歳以上のヒトの腸管に数カ月間にわたり菌が定着し毒素を産生し、乳児ボツリヌス症と類似の症状が長期間持続し発症する)、

の4つの病型に分類される。

 また、数年前にある宗教団体が国内で本菌毒素の噴霧をこころみるバイオテロが発生しましたが、幸いなことに感染発症する被害がありませんでした。この事件は、海外では重大なバイオテロと捕らえ危惧されていますが、わが国では被害がなかったとのことで、大きな関心がもたれませんでした。

 

9.野兎病(やとびょう)

定義 》野兎病菌(Francisella tularensis)による発熱性疾患であります。哺乳類の100種以上、鳥類30種以上、両生類、魚類、更には100種類の節足動物から菌検出例が報告されており、主にウサギ、リスなどのほか、ヒトにも感染する動物由来感染症です。野生鳥獣類の間で、吸血性節足動物(ダニ類や昆虫類)を媒介して維持されています。

《臨床的特徴》保菌動物の解体や調理の時の組織、血液との接触、あるいはマダニ、アブなど節足動物の刺咬により感染します。また、汚染した生水からも感染します。ヒトは感受性が高く、健康な皮膚からも感染しますが、ヒト−ヒト感染の報告例はありません。潜伏期間は3日をピークとする1〜7日間であります。初期症状は菌の侵入部位によって異なり、潰瘍リンパ節型、リンパ節型、眼リンパ節型、肺炎型などがあり、一般的な症状は悪寒、波状熱、頭痛、筋肉痛、局所壊死、所属リンパ節の腫脹と疼痛、肺炎症状、チフス様症状になり、最終的に敗血症に陥ります。

わが国では、かつて東北、北関東地方に流行していましたが、近年テロリストに悪用される危険性が危惧され、今回新4類感染症に追加されました。また、2002年秋に米国においてプレーリードッグが本菌に感染していることが判明し、2003年春よりわが国ではプレーリードッグの世界全地域からの輸入が禁止されました。

 

10.リッサウイルス感染症

《定義》狂犬病ウイルスを除くリッサウイルス属(Genus Lyssavirus)のウイルス感染症です。主にヨーロッパ、オーストラリア、アフリカに分布しています。狂犬病ウイルス(Rabies virus)と同属の類縁関係にあるため、鑑別が要求されます。

《臨床的特徴》Rabies virus は吸血コウモリ、イヌ、ネコ、キツネ、オオカミなど、European bat lyssavirus はヨーロッパの食虫コウモリ、Australian bat lyssavirus はオーストラリアのオオコウモリなどの食果実コウモリと食虫コウモリなどが宿主、あるいは媒介動物であります。潜伏期間は狂犬病ウイルスに準じた期間(20〜90日間)で、咬傷部位や程度により異なります。臨床症状としては、頭痛、発熱、倦怠感、創傷部位の知覚過敏や疼痛を伴う場合があり、狂犬病と同様に興奮、恐水症状、精神錯乱などの中枢神経症状を呈する場合があります。一般に発症後2週間以内に死亡します。

リッサウイルス感染症はラブドウイルス科リッサウイルス属による感染症ですが、リッサウイルス属に属するRabies virus による狂犬病は従来どおり新4類感染症に移行され、リッサウイルス感染症は今回の改正で新4類感染症に追加されました。

 

11.レプトスピラ症

《定義》レプトスピラ症は病原性レプトスピラ(Leptospira interrogansなど)により生じ、黄疸・出血・腎障害などを主徴とする重症型のものから、軽症のものまで、多様な症状を示す急性の熱性感染症です。病原性レプトスピラには230種以上の血清型が存在します。

本菌は感染したネズミ、イヌ、ブタ、ウマ、ウシなどの尿で汚染された下水を介してヒトに経皮感染します。時には汚染された飲食物を介して経口感染します。またペットブームを反映して自宅でマウスを飼育する人が増加し、ペットから伝染する動物由来感染症で、不明熱(Fever unknown organisms :FUO)の病因としても話題になっています。近年、ニカラグア、ブラジル、インド、マレーシア、米国などで集団感染が発生したために、今回の改正で新4類感染症に追加されました。

《臨床的特徴》レプトスピラ症は、わが国では従来から軽症型の秋季レプトスピラ病;秋疫(あきやみ)、イヌ型レプトスピラ病として有名で、多くの場合に穏やかな発熱程度の症状であります。ただ血清型によっては黄疸、出血傾向、腎不全に至る場合があり、この黄疸出血性レプトスピラ症はWeil病と呼ばれ、死亡率が5〜15%に及びます。潜伏期間は3〜14日間で、突然の悪寒戦慄、高熱、筋肉痛、眼球結膜の充血が生じ、4〜5病日後に黄疸や出血傾向が増悪する場合があります。

 診断法には、@全血をコルトフ培地に接種した分離培養で病原体の検出、APCR法(16SrRNA遺伝子、flaB遺伝子)で遺伝子の検出、B顕微鏡下凝集試験(MAT法)による血清抗体の検出があります。                                     

 

 12.バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症

《定義》獲得型バンコマイシン耐性遺伝子を保有し、バンコマイシン耐性(MIC値が32μg/ml以上)を示す黄色ブドウ球菌(vancomycinresistant Staphylococcus aureus :VRSA)による感染症です。2002年、米国でこの判定基準におけるVRSAが世界で初めて臨床分離され、その菌株から腸球菌のバンコマイシン耐性遺伝子として知られるvanA が検出されました。

《臨床的特徴》バンコマイシンの長期間投与を受けた患者検体から検出される可能性があります。

報告基準は診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の方法により病原体診断がなされたもの

 @血液など通常無菌であるべき臨床検体から黄色ブドウ球菌が分離され、バンコマイシン耐性の菌株

 A喀痰など無菌的でない検体から黄色ブドウ球菌が分離され、肺炎を始めとした深在性、侵襲性、あるいは全身性の感染症の起因菌であると判断され、バンコマイシン耐性の菌株(当面は糞便や尿から分離されるなど定着例が疑われるものも含む)

なお、バンコマイシンのMIC値の測定は、米国臨床検査標準化委員会(National Committee for Clinical Laboratory Standards,U.S.A.:NCCLS)の推奨する方法、またはそれに準拠する方法で行うとされています。 

感染症例にはバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の場合と同じように、接触感染予防策を講じます。

 

 13.RSウイルス感染症(定点)

《定義》RSウイルス(respiratory syncytial virus)を病因とする急性呼吸器感染症、かぜ症候群のひとつです。乳児期の発症が多く、特徴的な病像は細気管支炎、肺炎であります。

《臨床的特徴》RSウイルスは主に冬季に流行するパラミクソウイルス科ニューモウイルス亜科のRNAウイルスです。成人においては通常軽度の上気道感染、鼻かぜ症候群をもたらしますが、高齢者においては重症となる傾向があります。また主に小児、とくに乳幼児では2日〜1週間(通常4〜5日間)の潜伏期間の後に、初感染の乳幼児では上気道感染症状(鼻汁、咳など)から始まり、その後下気道症状が出現します。38〜39℃の発熱が出現することがあります。25〜40%の乳幼児に細気管支炎、肺炎、気管気管支炎もたらし、ときには死因ともなるために重大な呼吸器系ウイルスのひとつと言えます。さらには成人でも慢性肺疾患患者や臓器移植後の免疫不全患者においては高い死亡率と関連しています。

 多くのヒトが既に乳児のときにRSウイルスの初感染を経験していると言われますが、感染しても十分な免疫が成立しないために、成人になっても再感染を繰り返します。また、そのことによりワクチンの開発が困難になっています。

 RSウイルスは小児病棟において、古くから病院感染の病因ウイルスとして問題になっています。患児の鼻汁にRSウイルスが含まれていて、患児の皮膚や手指、衣類、おもちゃなどの物品や器具を介して接触感染します。鼻汁を含む飛沫が直接目や鼻に侵入して飛沫感染する場合もあります。

 診断には、鼻洗浄液、咽頭ぬぐい液から酵素免疫測定法(迅速診断キット)による病原体の検出、成人では中和反応、補体結合反応による血清学的検査法が用いられています。

 

 14.急性脳炎(ウエストナイル脳炎及び日本脳炎を除く)

《定義》ウイルスなど種々の病原体の感染による脳実質の感染症です。ただし、病原体が特定され、他の届出基準に含まれるものは除きます。炎症所見が明らかではないが同様の症状を呈する脳症もここに含まれます。

《臨床的特徴》多くは何らかの先行感染を伴い、高熱に続き意識障害やけいれんが突然出現し、持続します。髄液細胞数が増加しているものを急性脳炎、正常であるものを急性脳症と診断する場合が多いですが、臨床症状には差がみられません。報告のための基準は、意識障害を伴って24時間以上入院した者、あるいは24時間未満に死亡した者で、38℃以上の発熱、何らかの中枢神経症状、先行感染症状を有する場合であります。ただし、熱性けいれん、代謝疾患、脳血管性疾患、脳腫瘍、外傷など、明らかに感染症とは異なるものは除外します。

 

〈参考文献〉

1)感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の改正法.平成15年法律第145号。

2)感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行例.平成15年政令459号〜461号。

3)改正感染症法.日本醫事新報:No.4150号(2003年11月8日):72〜73、2003。

4)特定感染症指定の医療機関を整備に.毎日新聞夕刊(東京版):2003年11月11日号。

5)東京都感染症情報センターのホームページ:http://idsc@tokyo-eiken.go.jp

6)感染症法に基づく医師から都道府県等への届出のための基準の改正について。平成15115日通達、健感発

第1105006号。

7)Y’Letter:感染症予防法の改正について.吉田製薬のホームページ:http://www.yoshida-pharm.com/information

8)厚生労働省ホームページ:http://www.ron.gr.jp/law/law/kansensy.htm

9)臨床材料の取扱いと検査法に関するバイオセーフティマニュアル―SARS疑い患者―.医学検査:52:1370〜

1390、2003。

10)感染症新法のてびき.Medical Technology 別冊、1999。              2003.11.23作成 


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