社団法人千葉県臨床衛生検査技師会 一般検査研究班研修会資料
千臨技 2001.11.24
穿 刺 液 検 査 の す す め 方
JA愛知厚生連 安城更生病院
稲 垣 清 剛
I.髄液
1. 髄液
・ 脳室・クモ膜下腔を満たす液
・ 全髄液量 100〜150 ml (脳室内 20〜40 ml、クモ膜下腔 100〜110 ml)
・ 脈絡叢より産生.一部は脳室上皮や神経組織からも産生される
・ 1分間に 0.3〜0.5 ml 産生.1日に4〜5 回入れ替わる
・ 血液・脳関門により血液への物質透過能を有し、逆は制限されている
・ 役割
1) 中枢神経系への衝撃に対する緩衝作用
2) 神経細胞の浸透圧平衡の保持
3) 中枢神経からの分解不要物質の除去
2. 髄液検査が必須の疾患
1) 中枢神経系の炎症性疾患(髄膜炎・脳炎・脊髄炎)
2) クモ膜下出血
3) 白血病やリンパ腫など血液・リンパ系腫瘍の浸潤
4) Guillain-Barre症候群(急性脱髄性多発性根神経炎)
原因不明.風邪あるいは胃腸症状で始まる.疼痛を伴って筋脱力が下肢に出現し上肢に及ぶ.顔面神経麻痺や嚥下障害を示すこともある.一般に予後良好.蛋白細胞解離(蛋白量は増加するが細胞数は増えない)が特徴
3. 検査の種類
1)理学的検査
(1)液圧:60〜150 mm H2O 臥位 (2)Queckenstedt試験:陰性 (3)外観:水様透明 
(4)比重:1.005〜1.007
2) 細胞学的検査 採取後、速やかに行う
(1) 細胞数:5 /μl 以下、新生児 25 /μl 以下、乳児 20 /μl 以下
(細胞数増加を認めた場合、施設で基準を設け、染色標本での細胞種類検査を実施)
(2)細胞種類 ギムザ染色標本作製 塗抹後直ちに乾燥させる
リンパ球 約75%、単球 約22%、好中球 約2%など.新生児や乳児は組織球や単球の比率が高い
3)化学的検査
(1)総蛋白:10〜40 mg/dl(ピロガロールレッド法が主流)  
(2)グロブリン反応:Pandy反応(−〜±)、Nonne-Apelt反応(−) 
(3)蛋白分画 
(4)トリプトファン反応:陰性(キサントクロミーを認める検体では偽陽性となる) 
(5)ブドウ糖:50〜75 mg/dl(血糖値の約2/3の濃度 細菌性髄膜炎で低値) 
(6)Cl:120〜130 mEq/l  
(7)LD:8〜50 IU/l (細菌性髄膜炎で高くなる)
4)微生物学的検査
細菌検査 主な起因菌:B群溶血性連鎖球菌・大腸菌・リステリア菌・インフルエンザ菌・
肺炎球菌・黄色ブドウ球菌・表皮ブドウ球菌・髄膜炎菌・結核菌
真菌検査 主な真菌:クリプトコッカス・カンジダ・アスペルギルス・ヒストプラズマ
続発性が多い.基礎疾患の有無、免疫抑制剤や副腎皮質ホルモンの使用など
5)ウイルス抗体価
エコー4・6・9・30型、コクサッキーA7・A9・B3・B5型、ムンプス、日本脳炎、ポリオ、単純疱疹(ヘルペス)、狂犬病などの各ウイルス

II.胸水・腹水・心嚢水
胸腔・腹腔・心膜腔に貯留する液
健常人の胸・腹水は各々50 ml以下.心嚢水は10〜30 mlで心臓の動きに対して潤滑剤の役割を担う
1. 検査の目的
滲出液と濾出液の鑑別.場合によっては腫瘍細胞の有無
1) 滲出液:蛋白の透過性亢進(漿膜の炎症、悪性腫瘍の漿膜腔への転移・浸潤)
2) 濾出液:毛細血管内圧の上昇、毛細血管透過性亢進、膠質浸透圧の低下、リンパ管閉塞によるリンパ液の通過障害(鬱血性心不全、肝硬変、バンチ症候群、ネフローゼ症候群など非炎症性疾患)
2. 検査の種類
1) 理学的検査
(1)外観 色調・清濁・性状(漿液性、粘液性、膿性、血性、乳び性、脂肪性、胆汁性など)
(2)比重 屈折計にて
2) 細胞学的検査
(1)細胞数:チュルク液で10倍希釈し、ビュルケル チュルク計算盤で算定
(2)細胞種類:ギムザ染色標本作製 引きガラス法で塗抹後直ちに乾燥させる
腫瘍細胞の出現頻度が他の材料と比較し高い.反応性中皮細胞との鑑別が重要
3) 化学的検査
(1)リバルタ反応:酢酸添加量や水道水の温度によって反応が左右される
酢酸添加混和後、しばらく静置してから検査する
(2)蛋白量:蛋白計を用いる.冷蔵庫保存の検体は室温にもどしてから実施
(3)ブドウ糖:意義は少ない
(4)LD:抗凝固剤添加の検体はできる限り使用しない
4) 微生物学的検査
3. 検査結果と性状(滲出液と濾出液の鑑別)

滲出液 濾出液
比   重 1.018以上 1.015以下
リ バ ル タ 反 応 陽 性 陰 性
蛋  白  量 4 g/dl以上 2.5 g/dl 以下
穿刺液蛋白/血清蛋白 0.5 以上 0.5 未満
細 胞 数 多い(1000/μl以上) 少ない(1000/μl未満)
細 胞 種 類 多核白血球・リンパ球 中皮細胞・組織球
L D 200 U/l 以上 200 U/l 未満
穿刺液LD/血清LD 0.6 以上 0.6 未満
成 分 血漿成分に似る リンパ液に似る
フ ィ ブ リ ン 多 量 微 量

III.関節液
滑膜から分泌される特異タンパクやムチン、血清成分、細胞成分からなる
関節の潤滑作用および軟骨への栄養補給の役目をはたす
1. 検査の目的
関節疾患の診断補助
2. 検査の種類
1) 外観 色調・清濁・性状 正常関節液は無色透明、炎症時は黄色を帯び混濁
粘稠性(ヒアルロン酸による)が高いが炎症により低下
2) ムチン塊テスト 
固くて砕けにくい:健常・変形性関節症・外傷性関節炎
柔らかくて砕けやすい:慢性関節リウマチ・痛風・化膿性関節炎
3) 細胞学的検査
(1) 細胞数:直接、ビュルケル チュルク計算盤に入れて算定 細胞数が多い場合は希釈液(ニューメチレン青を0.5%加えた生理食塩水)で10倍し算定 チュルク液は不可
(2) 細胞種類:ギムザ染色標本作製 すり合わせ法で塗抹後直ちに乾燥
4) 化学的検査 必要に応じて液状化処理(試料10mlにヒアルロニダーゼ2?を加え、37℃ 5〜10分放置)を行う
(1)蛋白(血漿の1/3〜1/4):アルブミンがほとんど 炎症によりグロブリンが増加
(2)ブドウ糖(血糖値とほぼ同じ):炎症により低下
5)結晶同定
主な結晶:
尿酸ナトリウム(MSU)・ピロリン酸カルシウム(CPPD)・ハイドロオキシアパタイト・シュウ酸カルシウム・コレステロール・リン酸カルシウム
鋭敏色偏光顕微鏡:
尿酸ナトリウム(痛風)とピロリン酸カルシウム(偽痛風)の鑑別
鋭敏色板Z´軸に平行で黄、直角で青(負の複屈折)=尿酸ナトリウム
鋭敏色板Z´軸に平行で青、直角で黄(正の複屈折)=ピロリン酸カルシウム
6)微生物学的検査

【補足】
1.気管支肺胞洗浄液(BALF)
・び慢性間質性肺疾患を中心に行われる
・肺の1区域に対して100〜250 ml の生理食塩水が使用される
・喫煙者は非喫煙者よりも洗浄液の回収率は低い
・検査項目
細胞学的検査(細胞数・細胞種類・細胞免疫)
細菌学的検査(一般細菌や抗酸菌の培養、染色など)
ウイルス検査(ヘルペス・サイトメガロなど)
・細胞数算定
胸・腹水と同様の手技で行う
細胞は変性をきたしやすいため、洗浄後速やかに算定する
喫煙者の方が非喫煙者より細胞が多い
・細胞種類
線毛上皮細胞や扁平上皮細胞は無視する
健常者の細胞像:組織球約90%、リンパ球約10%、好中球約1%
組織球(肺胞マクロファージ)の出現は洗浄操作がうまく実施された証拠
2. 連続携行式腹膜透析(CAPD)廃液
・利点
食事制限が少ない
小児の成長を妨げることが少ない
貧血が発生しにくい
社会的活動の拘束が少ない
心臓・血管系への負担が少ない
・問題点
管理を怠ると腹膜炎を併発することがある
糖および脂質代謝異常に陥ることがある(透析液にブドウ糖を含むため)
食欲不振(腹部膨満状態による)や栄養低下になることがある
・検査項目
細胞学的検査(細胞数・細胞種類)
細菌学的検査
・細胞数検査
髄液と同様に行う.細胞数が多い場合は胸・腹水の方法に従う
正常時の細胞数:25/μl以下 
腹膜炎の診断基準:細胞数100/μl以上、好中球50%以上、細菌の検出
・細胞種類
中皮細胞は強い変性像を伴うため、その鑑別が重要


Copyright:(C) 2001 Chiba Association of Medical Technologists. All rights reserved.
これらの文章の一部もしくは全てを、製作者もしくは社団法人千葉県臨床衛生検査技師会の承諾なしに
複製、他の電子メディアや印刷物などに再利用することはできません。