千臨技会誌 2001 No.1 通巻81
シリーズ 細胞レベルの病理学
18. 甲状腺髄様癌(medullary carcinoma of the thyroid)
千葉大学医学部第一病理学教室 梅宮 敏文 
千葉県こども病院           中山   茂
千葉社会保険病院          岸澤   充
講   義 EBM時代における臨床検査の意義
−施設間における基準値統一化の重要性−
帝京大学医学部第三内科教授
帝京大学医学部附属市原病院中央検査部部長 
                    木野内 喬
研   究 生化学汎用自動分析機による血清SAAの
基礎的および臨床的検討      
〜腎疾患患者におけるSAAとCRPとの比較〜
帝京大学医学部附属市原病院 中央検査部
   高 階  成 実、上 野  芳 人、三 橋  裕 行
           桑 田  昇 治、木野内  喬
資   料 千葉県臨床検査値統一化事業経過報告 社会保険船橋中央病院検査部 
                    市原 文雄
資   料 山武地域の治験に携わる 千葉県立東金病院 治験事務室 
                    松 井 真理子
施設紹介 株式会社 サンリツ    


シリーズ
細胞レベルの病理学
18. 甲状腺髄様癌(medullary carcinoma of the thyroid)
千葉大学医学部第一病理学教室   梅宮 敏文 
千葉県こども病院  中山   茂 
千葉社会保険病院  岸澤   充 


【疾患の概念】
 甲状腺癌は、その組織発生により、濾胞上皮由来の乳頭癌、濾胞癌、未分化癌とC細胞由来の髄様癌(medullary carcinoma)に分類されている。この分類は腫瘍の疫学的背景、自然史、治療と予後、腫瘍マーカー物質の違いなどとよく対応し、広く用いられている。疫学的な髄様癌の発生頻度は欧米では、全甲状腺癌の4〜12%を占めるが,わが国では1〜2%と少ない。髄様癌は組織亜型が多く、濾胞上皮由来腫瘍との区別が困難な症例もあり、今日的な定義として、「C細胞由来の悪性腫瘍」と定義されている。
【組織学的特徴と組織発生】
 髄様癌はC細胞由来の悪性腫瘍でカルシトニンを分泌する。しかし最近は、ACTH、β-MSH、VIP、セロトニン、プロスタグランジンhistaminase、dopadecarboxylase、CEA、ソマトスタチン、プロラクチン、CRFなど多種ホルモンや物質も、同時に産生・分泌するといわ
れ、典型的APUDoma(アプドーマ)とされている。
 腫瘍細胞は、エオジンに淡染する顆粒状細胞質をもち、充実性胞巣を形成することが特徴であり、カルチノイドと類似性を示す。免疫組織化学的には、濾胞上皮マーカー物質(サイログロブリン、T3、T4など)は検出されず、C細胞マーカー(カルシトニン、CGRPなど)に陽性を示す。CEAは多くの例(80〜90%の症例)で陽性、ケラチンなどの上皮マーカーももっている。
【電顕的特徴】
電顕的特徴の最も大きいものは、APUD(Amine Precursor Uptake Decarbxylase)系細胞の特徴である高電子密度のコアと限界膜をもつ神経内分泌顆粒をもつことである。これが、光顕的に顆粒状の細胞所見と対応する。分泌顆粒の電子密度には種々のバリエーションがあり、内分泌細胞としての分化度の未熟性と結びつける考えもある。髄様癌の予後不良例を低分化型とよび、それらの例では分泌顆粒は小型で少数であることが多い。
 髄様癌腫瘍細胞は、細胞膜が密着し上皮性の結合を示すが、デスモゾーム結合は貧弱で、細胞の結合性は弱い。間質にはアミロイド物質の沈着が約80%の症例にあり、電顕的には10nmのアミロイド線維の沈着として検出される。そのほかの細胞内小器官は、内分泌細胞の特徴であるゴルジ体や粗面小胞体の発達がよいことであるが、未分化型髄様癌では細胞内小器官の未発達なものが多い。
【症例】
本症例は、35歳(女性)。甲状腺左葉に20ラ22ラ20mmの腫瘍を認め、摘出手術施行。
【病理組織学的検索】
免疫染色:カルシトニン(+)   
特殊染色:Grimelius (+)、Fontana-Masson (−)、Congo Red(+)であった。

【電顕的検索】
間質にアミロイド線維束(写真-4)を認め、腫瘍細胞の細胞質には神経内分泌顆粒(写真-3)を認めた。

【病理組織診断】
甲状腺随様癌
写真1 甲状腺髄様癌組織像 H-E染色
 左上部に既存の濾胞を認め(矢印)、細胞質は明るく顆粒状
で円形核を有する充実性腫瘍胞巣を認める。
写真2 同症例アミロイド沈着 H-E染色
 写真中央(矢印)にアミロイド沈着(Congo Red+)と充実性
腫瘍胞巣を認める典型的甲状腺髄様癌。
写真3 同症例 高分化型髄様癌電顕像
 多数の大型神経内分泌顆粒を細胞質に認める.ゴルジ体な
どの小器官の発達もよい。
写真4 同症例 アミロイド沈着電顕像
 間質にアミロイド線維(矢頭)と腫瘍細胞の細胞質に多数の
神経内分泌顆粒(矢印)を認める。
【参考文献】
1.覚道健一他:8.内分泌 甲状腺髄様癌.病理と臨床増刊号 病理組織診断における電子顕微鏡の有用性Vol.10; 284-287, 1992.
2.甲状腺外科検討会:甲状腺癌取扱い規約Vol5.1996
3.加藤良平:甲状腺癌 甲状腺癌の腫瘍分類-分化度を中心に-.病理と臨床,14(5)603-607, 1996.

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講   義
EBM時代における臨床検査の意義
−施設間における基準値統一化の重要性−
帝京大学医学部第三内科教授
帝京大学医学部附属市原病院中央検査部部長
木 野 内 喬


 千葉県市原市に新設された帝京大学医学部附属病院(市原病院)中央検査部の部長に私が就任してからほぼ15年が経過致しました。臨床検査とは無縁だった内科医の私が中央検査部の部長に就任して臨床検査における精度管理の実態とその重要性について認識するようになった経緯については、最近私立医科大学臨床検査技師会誌のカメラデンに寄稿致しましたのでお読みになった方もあるかと思いますが、千葉県臨床衛生検査技師会誌の編集部の方からも「EBM(Evidence Based Medicine)時代に相応しい臨床検査の精度管理」について私の考えを述べるようにとのご依頼があったので、前稿と多少重複するかも知れませんが、日常業務の中で臨床検査技師の方々や医師達との関わりを通じて実感させられた「EBM時代における臨床検査の重要性」について述べさせて頂きます。

 内科兼任の中央検査部部長という立場上、同僚の医師から臨床検査データについて色々な質問を受けることがあります。自分の判断で簡単に答えられる質問にはその場で返事をすることもありますが、大抵は私の手には負えなくて検査部の担当者の意見を聞いてから答えることになります。比較的最近にもそのような事例がありました。
 内科の症例検討会で、当院のLDH(LD)の基準値は低めに設定されているのではないかという質問がありました。その理由として、LDHの結果報告欄に基準上限値を越えているという意味のHが付く場合が多いような気がするということでした。確かに私自身も日常診療の場でHが付く症例が多いという印象を受けていましたので、早速生化学検査室の責任者に話して検討して貰いました。
 当院の生化学検査室では、LDHの測定法は本院(帝京大学医学部附属病院)の方法(W-L法)をそのまま採用しましたので、基準値も本院の値(140〜360単位)を変更せずに使用していました。
 職員検診の際に採取した検体を測定し、Xア2SD法により得られた値や多数の患者データを基にトランケート分布に基づく最尤法により算定した仮の基準範囲はおおよそ180〜420単位となり、もしこれを採用しますと基準上限値は現行の値より高値になります。
 次に比較のために千葉県の主要な病院のLDHの基準値を調べてみました。当院と同一の測定法を使用している順天堂大学浦安病院の基準値は上限値で我々の基準値をほぼ100単位上回っていました。千葉大学病院や循環器病センターではJSCC勧告法を用いているのでそのまま対比することはできませんが、当院の基準値のほぼ1/2程度でした。しかし、同じJSCC勧告法による測定ですが、両病院間にも基準上限値で20単位ほどの差が見られます。このように測定法が同じでも基準値は施設によってかなりの格差があります。
 基準値は施設毎に設定するのが望ましいとされていますし、またそれが当然な事だと思いますが、基準値を算定する場合通常は職員検診や人間ドックの検体を用いたり患者のデータベースを利用したりすると思いますが、バイアスを完全に除外することは不可能なので、施設による偏りは避けられないと思います。従って、いかにしてすべての施設に共通な基準値を設定するかがこれからの課題になります。ちなみに、現在当院ではLDHの測定法をJSCC法へ変更することを検討中なので、混乱を避けるため今のところ基準値はそのまま使用しています。
 日常診療が主として医師の経験と勘で行われ、しかも患者が医師を選択するという意識が少なく、特定の病院を受診すれば自らの意志で病院を替えることがなかった時代には、臨床検査における精度管理の条件としては精密度がきちんと確保されていれば正確度に多少の施設間格差が存在してもほとんど問題にはならなかったと思います。
 しかし、最近は医療を取り巻く環境は急激に変化しています。現在はEBMの時代といわれるように、従来の医師の経験を基にした医療から、科学的根拠(エビデンス)に基づいた実証の医療に転換しつつあります。それに患者の意識の変革も見逃せません。患者が自らの意志で治療方針を選択するためにも検査データを含めた正確な医療情報の提供を要求することが多くなりました。さらに、自らの診療方針に対するセカンドオピニオンを他の医療機関に積極的に求めるようにもなりました。そうなりますと当然臨床検査においてもその質の施設間格差が問題になるはずです。
 EBMでは、治療法を選択する場合には科学的に公正な評価を受けた方法を選ぶことが要求されます。そのめ医療の各分野において診療の指針となるエビデンスを得るために多施設大規模介入試験が実施されています。脂質代謝異常を治療することによる虚血性心疾患や脳血管障害の予防効果についての多施設大規模介入試験を例にとっても、ある高脂血症治療薬を選択した際、血中脂質濃度がどの程度改善し、疾患の発症率や死亡率がどの程度減少するかなどが厳密に検討されています。その結果エビデンスの明らかでない治療法は淘汰されることになります。そのような臨床治験において、検査の測定誤差や施設間較差などのバイアスが大きければ、当然その試験の信頼性は低くなり、膨大な労力と費用が無駄になることもあり得ます。したがって、多施設大規模介入試験においては臨床検査データを提供する検査部の責任は極めて重大です。
 私達の病院でも新薬の臨床治験がしばしば実施され中央検査部に検査を依頼されることが多いのですが、その際基準値がかなり重要視されます。当然のことながら、治験担当医師や薬剤メーカーの担当者は投薬による異常値の出現には極めて敏感です。基準値から外れれば異常値として扱われるので、基準値に神経質になるのは当然です。それが理由なのかは分かりませんが、検査試料を特定の検査センターへ搬送し一括して測定するなどの処置をとる場合もあります。各施設間での基準値の統一化がなされれば、すべての検査試料を治験実施施設で測定できるようになり、不適切な検体保存によるばらつきの発生も避けられると思います。
 臨床病理学会の元理事長であられる河合忠先生はグランメッセ熊本で開催された平成11年度の臨床病理学会総会で「Evidence-Based Laboratory Medicine−臨床検査医学の新しい課題」と題する教育講演をなされましたが、その中で次のように述べておられます(臨床病理 48(3):191〜199、2000参照、アンダーラインは筆者による)。

 現在までのEBMは、適切な治療を目指した活動が中心となっている。しかし、適切な治療を施す前に、適切な診断が基礎となるので「(科学的)根拠に基づいた診断」(Evidence-Based Diagnosis、EBD)が必要である。また、EBDにはさまざまな分野の技術が利用されているが、その中でも臨床検査の重要性が大きく、わが国では総医療費に占める検査費用は約10%弱である。日常診療に利用される臨床検査も多種多様となっており、それらを無駄なく効率的に利用するための診療技術が必要である。それには、専門家の経験に頼る使い方ではなく、EBMの考え方を基に検査計画を立てる必要があり、「(科学的)根拠に基づいた臨床検査医学」(Evidence-Based Laboratory Medicine、EBLM)が注目されている。

 確かに、治療方針を決定するためには正しい判断がなされることが大前提ですので、科学的根拠に基づいた診断(EBD)はEBMの中核をなすと言っても過言ではないと思います。河合先生も指摘されているように、科学的根拠に基づいた臨床検査医学が確立されるためには、それぞれの検査項目について今まで以上の厳しい精度管理が要求されるだけではなく、検査法それ自体についても科学的根拠に基づいた有効性についての再評価が必要となるでしょう。その結果エビデンスが得られない検査は当然淘汰されることになり、検査の効率化に寄与することになるはずです。医療の転換期において臨床検査に携わる医師や臨床検査技師の果たす役割はますます重くなることでしょう。
 施設間での基準値の統一化に関して、本県では、千葉県臨床衛生検査技師会が中心になって千葉県臨床検査統一化事業が推進されて来ましたが、その一環として最近検査値統一精度管理用試料であるチリトロール2000が作製され、各施設においてルーチン測定に使用され、データの集計が行われ、検査値における施設間格差の解消の努力がなされています。この事業はまだ始まったばかりですが、近い将来千葉県では施設間の検査値の統一化がなされるものと期待されます。もちろん、検査値の施設間格差の解消のための事業は今までも全国的規模で展開されていますが、千葉県の事業が成功すればこの流れにさらに拍車をかけることになると思います。
 最後に、千葉県臨床衛生検査技師会の会員の方々が臨床検査の質の向上の為に率先して活躍されることを期待して筆を置きます。

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研  究
生化学汎用自動分析機による血清SAAの
基礎的および臨床的検討      
〜腎疾患患者におけるSAAとCRPとの比較〜

帝京大学医学部附属市原病院 中央検査部
      高階 成実、上野 芳人、三橋 裕行
      桑田 昇治、木野内 喬


Key words
  血清アミロイドA(SAA) 
  生化学汎用自動分析装置 
  炎症 
  腎疾患 

 血清アミロイドA(SAA)は、炎症や感染などの際に上昇する急性期炎症蛋白の一つである。従来は免疫拡散法1)2)やRIA法3)などにより測定されていた
が、操作が煩雑であり、日常検査としての測定系は確立されてなかった。近年、抗SAA抗体を用いた、ラテックス凝集ネフェロメトリ−法を原理とした免疫化学分析装置による測定法が開発された。以後、ラテックス凝集比濁法を測定原理とした試薬が開発され、汎用生化学自動分析機での測定が可能になった。今回、われわれは日立7150形自動分析装置を用いて、ラテックス凝集比濁法を測定原理としたSAA測定試薬の基礎的検討を行った。さらに、腎疾患患者のSAAを測定し、CRPとの比較、およびステロイド投与の有無についての比較を行い、その臨床的意義について検討したので報告する。

【対象および方法】
1.対象 
 病理組織学的に診断された慢性腎疾患患者48例(内訳:糸球体腎硬化症5例、微小変化群5例、膜性腎症14例、IgA型腎症18例、ル−プス腎炎6例)、および糖尿病性腎症17例の計65を用いた。対照群として当院職員の男性45例、女性72
例、計117例の血清検体を用いた。

2.方法
 SAAは、ラテックス免疫比濁法を原理としたLZテスト‘栄研’SAA(栄研化学)を用い、日立7150形自動分析装置にて測定した。CRPは、ラテックス免疫比濁法を原理としたLZテスト‘栄研’CRP(栄研化学)を用い、日立7070形自動分析装置にて測定した。

【結 果】
1.再現性
 3濃度のプ−ル血清を10回測定した同時再現性のCVは、1.17〜3.24%となった。日差再現性は、1濃度のプ−ル血清を用い6回測定したところ、CVは4.29%であり良好な結果であった(表1)。
2.共存物質の影響
 干渉チェックA(国際試薬)を用い、共存物質の影響を調べた。その結果、抱合型ビリルビンは22.0mg/dlまで、溶血ヘモグロビンは450mg/dlまで、乳びは1800ホルマジン濁度まで、影響は認められなかった(表2)。
3.希釈直線性
SAA高値の血清を、段階的に希釈したところ、300μg/mlまで直線性が認められた(図1)。
図1 直線性
4.検出感度
 SAA低値の血清を、段階的に希釈し、5重測定した。その結果、±2SDが、0濃度と重ならない濃度は2.6μg/mlであり、これを最小検出感度とした(図2)。
5.免疫測定装置 LX2500との相関
 当院に提出された検体67例において、本法を比較対照法として、全自動免疫化学分析装置LX2500(栄研化学)との相関を調べたところ、回式y=1.118x-6.405、相関係数r=0.996と良好であった(図3)。
図3 免疫測定装置LX-2500との相関
6.健常者のSAAの分布
 当院職員の117例(男性45例、女性72例)の検体において、SAAを測定した。全体の平均は3.1μg/ml、SDは2.73μg/ml、95%上限値は8.3μg/mlであった(図4)。
図4 健常成人のSAAの分布
7.腎疾患患者におけるSAAとCRPとの相関(図5)
 腎疾患患者65例のSAAとCRPを測定し、その相関を調べた。その回帰式はy(SAA)=53.312x(CRP)+0.627、相関係は0.780(p<0.001)で、両者に相関関係がみられたが、乖離検体も多く認められた。
8.腎疾患者のSAA値
 腎疾患患者と、健常者とのSAA値の比較を図6に示した。対照群(3.05μg/ml、±0.25μg/ml)に比べ、糸球体腎硬化症(21.60μg/ml、±10.53μg/ml)、微小変化群(21.86μg/ml、±11.42μg/ml)、膜性腎症(17.39μg/ml、±11.37μg/ml) IgA型腎症(9.26μg/ml、±2.94μg/ml)、ル−プス腎炎(39.8μg/ml、±27.67μg/ml)、糖尿病性腎症(16.51μg/ml、±4.26μg/ml)と各群とも有意に高値を示した。特に、ル−プス腎炎は他の疾患群に比べ、より高値を示した(P<0.001)。
 SAAとCRP(μg/ml)の比は、腎疾患患者全体の平均で5.98、糸球体腎硬化症で4.41、微小変化群で9.26、膜性腎症で12.78、IgA型腎症で9.08、ル−プス腎炎で7.85、糖尿病性腎症で3.70であった。
9.腎疾患のSAAとCRPの陽性率の比較 SAAの健常者上限を8.3μg/mlとしそれ以上を陽性、CRPは正常値を0.3mg/dlとしそれ以上を陽性とし、群別にそれぞれの陽性率を比較した(表3)。各群と
もSAAの陽性率では有意差は認められなかったが、全体でのCRPの陽性率が29.2%に対し、SAAの陽性率は44.6%と、高い陽性率であった(P=0.05)。
10.腎疾患におけるステロイド剤使用による比較
 腎疾患患者65例のうちステロイド剤を投与されている症例は14例であった。これらの14例についてSAAとCRPの比較をした(表4)。SAAが8.3μg/ml以上の陽性例は6例(42.9%)、CRPが0.3mg/dl以上陽性例は4例(28.6%)であり、SAAの陽性率はCRPよりも高頻度であった。

【考 察】
 従来のSAAの測定法は、RIA法、ELISA法、SRID法が報告されている。その後、永徳ら4)により、リウマチ患者血清から精製されたSAAにて抗SAA抗体を作製し、これを自動分析装置用の試薬として開発され自動化法が可能になった。
 今回、汎用機器である日立7150形自動分析装置にて、ラテックス免疫比濁法によりSAAを測定し基礎的検討を行った結果、精度も良好であり、ビリルビン、ヘモグロビン、乳びによる干渉物質の影響も認められなかった。直線性は300μg/mlまであり、300μg/mlを越える検体では希釈が必要である。また、最小検出感度は2.6μg/mlであり、日常検査に充分対応可能な測定法だといえる。比較対照法として、ネフェロメトリ−法である全自動免疫化学分析装置LX2500との相関を求めたところ、良好な結果が得られた。以上のことから、汎用機器においても、精密な測定が可能であり、日常検査法として有用であると考えられる。
 SAAはアミロイドの前駆体であり、炎症時に鋭敏に増加する急性反応物質の一つでもあり、急性反応期におけるSAA測定の有用性はすでに報告されている
5)。しかし、臨床では、CRPが炎症マ−カ−として広く用いられているが、近年SAAはCRPよりも早期に上昇してくることや、CRPの上昇が顕著に見られないウイルス感染においてはSAAがその臨床を反映しているなどSAA独自の臨床的意義が報告されている6)。しかし、感染症での報告は多いが、それ以外での疾患での報告は少なく、特に腎疾患との関係についての報告が少ない。そこでわれわれは、慢性腎疾患患者のSAAを測定し、腎疾患とSAAとの関係を検討した。SAAとCRPとの相関では緩やかな相関関係が認められたが、解離検体が多く認められたことは、両者が生体内で全く同時期に産生または異化されているわけではないという報告7)もあり、検体採取時によっては、両者が必ずしも並行しないことを示唆するものと思われた。われわれはウイルス感染症の一症例についてCRP とSAAの経時的変化を追ったが、CRP とSAAのピ−ク時前に、CRP が0.3 mg/dl以下であったのに対しSAAは45.4μg/mlと高値を示してたことを経験している。
 しかしながら、腎疾患患者のSAA測定値は、対照に比べ、有意に高値を示し、しかもCRP に比べSAAの方が陽性率が高かったことから、腎疾患とSAAは密接な関係があることが示唆された。
 また、腎疾患全体の平均のSAA/CRP比は、5.98であった。これはMauryら
8)による慢性糸球体腎炎(n=39)でのSAA/CRPが0.2〜5.2の範囲であり、われわれの成績の方が高値ではあった。またその疾患別ではSAA/CRP(μg/ml)の比は、糸球体腎硬化症で4.41、微小変化群で9.26、膜性腎症で12.78、IgA型腎症で9.08、ル−プス腎炎で7.85、糖尿病性腎症で3.70であり、ウイルス感染症の報告6)8)と比べ、高値であったことから、慢性的な腎の炎症によりSAAが血中に存在し、その上昇は腎疾患の活動性を反映している可能性が高いと考えられる。一方、腎疾患を分類した比較で、特にル−プス腎炎でSAAの陽性率が高いことから、SAAの方がCRPに比べ反応性が高いことが示唆された。
 また、抗炎症薬であるステロイド剤による治療では、CRPはステロイド剤で抑制され変動が緩慢になることが知られている。しかし、SAAはステロイド剤で抑制されない
9)との報告がある。〆谷ら10)は、ステロイド投与量別にCRPとSAAの変動を比較し、ステロイド量が増加した場合、SAAに比べ、CRPの低下率が大きかったと報告している。われわれの成績においても、ステロイド投与群でSAAの陽性率は高い傾向を示したことから、ステロイド投与により、SAAが抑制されにくいことが示唆された。しかし、今回は少数例のため、さらに症例を増やし検討する必要があると考えられる。

【まとめ】
 本検討のSAA測定試薬は、汎用自動分析装置にて精度良く測定でき、迅速に結果を出すことが可能である。
 腎疾患患者のSAAは、健常者対照群に比べ有意差が認められ、またステロイド投与群においてCRPよりも鋭敏に反応していたことから、腎疾患の炎症の一指標となり得ると考えれる。

【文 献】
1)山田俊幸:血清アミロイドA(SAA)蛋白.臨床病理、38:249-254,1990.
2)山田俊幸:Serum Amyloid A(SAA)の定量と臨床的意義・慢性関節リウマチを中心に・.臨床病理.36:459-463,1988.
3)富田誠人、他:Serum Amyloid Protein A(SAA)の測定によるアミロイド発生への検討-炎症反応での動態-.リウマチ、25:110-114,1985.
4)永徳広美、他:Serum amyloid A(SAA)に関する研究(第二報).生物物理学、37:19-23,1993.
5)Hiroyuki Miwata.,et al:Serum amyloid A protein in acute viral infections.Archives of Disease in Childhood8,68:210-214,1993.
6)香坂隆夫、他:ラテックス凝集免疫測定法による血清アミロイドA(SAA)測定の臨床的検討.医学と薬学、31:1191-1210,1994.
7)香坂隆夫:血清アミロイドA(SAA)蛋白の臨床的意義と分子生物学的背景.検査と技術、22:679-686、1994.
8)Maury,C.P.J:Comparative study of serum amyloid A protein and C-reactive protein in disease.Clin.Sci,68:233-238,1985.
9)Smith J,Colombo J,McDonald T:Comparison of serum amyloid A and C-reactive protein as indicators of lung inflammation in corticosteroid 
treatedand non-corticosteroid treated cystic fibrosis patients.J Clin Anal,6:219-224,1992.
10)〆谷直人、他:C反応性蛋白(CRP)低濃度域における血清アミロイド(SAA)およびIL-6の変動について.臨床病理、44:669-675,1996.

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資  料
千葉県臨床検査値統一化事業経過報告
社会保険船橋中央病院検査部 
市原 文雄 


はじめに
 昨年末、検査値統一化マニュアルを発行し、臨床化学検査値の共有化を目指した活動が開始された。そして、チリトロール2000(千臨技認証検査値統一化精度管理試料)を標準化の柱とした作業が4月から本格的にスタートして約半年を経過した。5月には県内4地区(船橋・千葉・成田・市原)において統一化事業説明会を実施した。JSCC法への変更を臨床側へもっと説得できる説明文がほしい。あるいは、暫定基準範囲に福岡県五病院会で求められたものを引用にしている項目があるため、その検証を行ってほしいなど様々な意見が寄せられた。7月には統一化参加施設に対して、チリトロール2000の月間データ集計を実施した。さらに、第37回関東甲信地区医学検査学会では臨床検査値統一化シンポジウムを開催し、本事業の発足からここまでの経緯を報告させていただいた。そこで、シンポジウム報告内容を中心に今後の本事業の進め方について考えてみたいと思う。

1.チリトロール2000認証値について
 当初、予想もしなかったチリトロールの溶解誤差や、3月に基幹8病院により設定した認証値にいくつかの問題点が発生した。特に、酵素項目認証値と日常検査におけるチリトロールの測定値に明らかなズレが生じてきた。設定した値を100%として、9月までの基幹8病院の測定平均を追跡すると、図に示すとおりASTで8%、ALT・ALPで14%程度の低下傾向が見られた。 LD ・ CK ・約2%程度の低下にとどまった。チリトロールは県外からのサンプル提供希望もいただいている事から、その対応と11月に実施される県技師会精度管理調査に使用する2濃度のプール血清の値づけも兼ねて、酵素6項目とHDLには試薬メーカー別の認証値を新たに設定した。なお、その他の項目は3月に設定した認証値に変更はない。酵素6項目については今後も低下していく可能性があるため、データの推移を注視しなければならないと考えている。

2.暫定基準範囲の検証
 基準範囲の設定にはできるだけ健常者群、たとえば検診受診者や院内職員検診などの母集団を用い、NCCLSガイドラインに従い、問診表から喫煙・飲酒歴などの生活習慣を明確にして、異常者をあらかじめ除外したデータから求めることや、ひとつの医療機関だけでなく施設間の協力により設定することが望ましいなど多大な労力を必要とする。今回、マニュアルには福岡五病院会で求められたものを一部暫定的な基準範囲として掲載した。求めるための時間的余裕がなかったことはもちろんだが、標準化された方法を用いていれば、引用しても差し支えないのではないかと考えたからである。福岡県の場合は、職員ボランティアにより問診表とNCCLSガイドラインを考慮し、さらに3年間に渡り検証しているなど、かなり信頼性の高い基準範囲と言える。
 しかしながら、何らかの方法で我々も検証する必要性があると考え、川崎医科大学病院の市原清志先生により開発された潜在基準値抽出法を用いたソフトウエア(関東化学普及支援版)によりその検証を行った。本法は検診・患者データを問わずに母集団として利用し、同時測定されている関連項目の検査成績を手かがりに、基準値としてふさわしいデータを選択的に抽出するため、検査成績をテキストデータに変換できれば、比較的簡便に基準範囲を計算できる。そこで、今回は私の所属する社保船橋中央病院健康管理センターを受診した方のデータを対象に実施を試みた。方法は月単位でデータを抽出し、動脈硬化ガイドラインに従いTCH220mg/dl以上・TG150mg/dl以上・HDL40mg/dl以下と、さらに血糖110mg/dl以上の受診データを除外後、本プログラムにより求めた。3ヵ月間(5〜7月)の約3000名/月の受診者から約500データに絞り込まれた成績を表に示した。ただし、検診項目にはない電解質(Na・K・CL)は外来患者データから、そしてCPK・Caは当院の職員検診に追加測定して求めた。月ごとに、各項目ほぼ差のない基準範囲が得られたが、暫定基準範囲と比較するとALBの上限が低いことや、γ-GTPも問診表を考慮に入れないと飲酒習慣の因子が含まれて上限が高くなり、むしろ女性のみの数値と一致している結果となった。

3.千臨技ホームページへの掲載
 松戸市立病院の駒木インターネット委員のご協力により、統一化参加施設一覧と基幹8病院の4〜7月までの月間データを、対照全21項目千臨技ホームページに掲載した。11月中に新認証値と推移グラフの更新を行う予定である。

4.最後に
 県内において比較的採用率の低かったALP・LD・γ-GTPのJSCC法への変更も、本事業推進後着実に増加している。また、チリトロール2000のALPやCKに日間差が確認されており、より安定な試料供給のため凍結試料への移行も視野に入れながらデータ集積を行い、完璧に近い共通管理血清にしなければならない。そのためにも、今後本試料を他の団体や他県技師会に御評価いただき、本事業の全国展開を推進していきたいと千臨技では考えている。また、当技師会では臨床医への検査値統一化PR活動についても、関甲信学会シンポジウムでも紹介された徳島県全施設基準値統一のプロトコールを参考に、千葉県医師会の理解を求めていく方向である。なお、12月2〜3日に開催する臨床化学検査研究班海ホタルセミナーでは、技師会精度管理中間報告と県内検査値統一化の現状と今後の課題について議論したいと考えている。

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資  料
山武地域の治験に携わる

千葉県立東金病院 治験事務室 
松井真理子


 今年の5月より、千葉県立東金病院の治験事務室に勤務しています。「治験」とは、なにか?と、核心に触れる前にまず、病院の紹介をさせて頂きます。
 千葉県立東金病院は、結核病棟・伝染病病棟を含め、総病床数191床の、山武郡市の中核病院です。一般医療・成人病の療養指導(特に糖尿病)に力を注ぎつつ、「地域の皆さんと一緒に立ち上げる、臨床試験(治験)の充実」をモットーに、糖尿病や、高血圧症などの治験を行なっています。
 特に、地域中核病院ということもあり、平成12年度4月より、東金病院を中心に、地域の診療所が参加した、山武地域治験ネットワークによる治験も実施しています。治験ネットワークでは診療所と東金病院をインターネットで結び、患者さんの情報を共有しています。IT(情報技術)を活用した、先進的な試みとして、全国から注目されています。
 ここで「治験」について、説明をしようと思います。治験とは、新薬の製造を厚生省に承認申請する為、必要な資料を収集することを目的とする、第T相から、第V相の臨床試験のことです。治験は3つのステップを踏んで進められます。
 第T相:少数の健康な人を対象とし、ごく少量から投与していき、好ましくない副作用を生じないか等を調べます。
 第U相:同意を得た少数の患者さんを対象に第T相で得られた結果を中心に、有効性と安全性を調べ、使用方法や投与量につい ても検討します。
 第V相:更に多くの患者さんを対象として、有効性や安全性を確認します。 新薬としての有用性があるかどうかを見極める、最終 的な試験です。
 市販後調査:新薬として認められ、市販された後にも、6年間の調査期間が設けられていて、その間、副作用や有効性などについ ての情報を厚生省に報告しなければなりません。
 この市販後調査は治験とはいいません。
 前述のとおり、第T相・第U相・第V相の臨床試験のことを、治験といいます。
以上が、治験についての、簡単な説明です。
 現在、東金病院の治験事務室では、第U相及び第V相、そして、市販後調査を行なっています。
 では、いよいよ、私の仕事である、CRC−Clinical Research Coordinator−(治験コーディネーター)についてです。
 千葉県立東金病院における治験に係わる標準業務手順書において、「CRCは、治験責任医師の指導・監督のもと治験を適正且つ、安全に実施する為、治験関連業務の一部を、分担する治験協力者である。」と、定義されています。
CRCの業務内容
 ・ 治験の準備
 ・ 治験の実施
 ・ 同意取得に関する業務
 ・ 被験者の登録
 ・ 被験者へのケア
 ・ 医師への資料、情報提供
 ・ データの収集、整理と報告
 ・ ケースカード(症例報告書)の作成支援
 ・ 有害事象への対応
 ・ CRA(モニター)への対応
 ・ 原資料等の直接閲覧への対応
 ・ 必須文書等の作成、整備、保存の支援
と、仕事は色々あります。
しかし、新米である私ができる事といえば、被験者の来院日時、検査スケジュールの管理、治験外来においての補助、検査案内、検査データの収集・整理・チェック、ケースカードの下書き等々です。具体的に何をしているかというと、プロトコール(治験実施計画書)にある検査に漏れがないかをチェックし、漏れがあった場合には検査項目を追加したり、被験者の診察時には、Dr.に次回の検査予定をお知らせし、検査結果をチェックしたりしています。
 検査結果のチェックにあたっては、臨床検査技師として、結果の意義をしっかり勉強して、患者さんの状態をいち早くチェックできるようになりたいと思います。
 薬のこと、IRB(治験管理委員会)、GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準)についてなど、勉強不足で、何も語れないというのが実情です。
 最近、やっと「治験」というものが見え始めてきた今日この頃です。今回、このような公の場に載せて頂くような仕事は、まだまだなのですが、先輩CRCを見習い、日々、精進して、「私は、臨床検査技師のCRCです」と、きちんと名乗れるようになりたいと思います。

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施設紹介


株式会社 サ ン リ ツ


 秋も深まった11月1日、 八千代市上高野に株式会社サンリツの本社を訪ねました。 サンリツ本社は、 国道16号線を千葉から柏方面に向かい、 国道296号線の先を右折した村上団地の近く、 工業団地の中に、 SANRITSUと描かれた3階建ての薄水色の建物でありました。
 株式会社サンリツ(以下サンリツ)の医学検査部門について、 朝比奈取締役(前千臨技事務局長)、 下川部長(現千臨技事務局長)、 下条副部長にお話を伺いました。
 サンリツは、 1968年1月、 有限会社三立として設立され、1970年(株)三立に組織変更されました。1971年5月、 登録衛生検査所千葉県第1号として認定され、 その後1983年には船橋市に検査所を開設、 当時は総武臨床検査センターを通称名としていました。 1993年12月、 商号を株式会社サンリツに変更すると共に八千代市に本社を移転し、現在に至っています。
 現在は社員190名、 検査従事者80名で、 検査従事者の90%以上が有資格者で占められています。 検体は千葉県全域、 及び東京, 埼玉, 茨城の一部から集配(集配は70ルートで、契約施設は1000以上!)され、契約先は検査室を持たない医院・診療所の割合が圧倒的に高いということでした。また気になる検体数は1日あたり約1万患者/2万検体で, RI, PCR 等の一部特殊検査は, 他の衛生検査所へ再外注(全体の10%程度)していました。検体の受付(集配から)から測定, 結果返却まで、順を追って見学させて頂きました。
 まず、検体が到着後、依頼書に応じてバーコードを発行します。依頼書を高速スキャナー(1-2枚/秒!)で読み込み、オーダーの確認をコンピュータ上で行った後、バーコードラベルを印字します。このラベルの氏名欄には依頼書の手書きの氏名がそのままコピーされます。ラベルの氏名と各施設で検体に張ったラベルの氏名を照合して上張り後、各検査室に振り分けられます。

 1階フロアは, 主にこの検体受付と、生化学・免疫・一般検査室で構成されており、30名が、2-3交替、24時間体制で分析を行っていました。
 生化学検査室では、日立の大型自動分析装置3台を始め、数の分析装置が整然と並べられていました。 生化学の通常項目では、元検体から分注機によって子分注された検体をいずれかの大型自動分析装置装置で分析します(5000件/日)。測定値は前回値(過去3ヶ月)との比較を行うと共に、極端な異常値については、異なった方法や別の分析装置で再検査していました。精度管理試料は検体100本毎に1回、1日60-90回測定し、チリトロールも精度管理試料として定期的に測定していました。また環境汚染を考慮し、子分注の試験管はすべてガラス管を用い、洗浄後再利用していました。分析装置の機種間差は, 毎朝患者検体を10本以上測定し、相関をとって確認しているそうです。チリトロールについては、溶解の仕方で測定値が変わることがあり、導入当初は苦労したとのご指摘も頂きました(^^;)。また、蛋白の電気泳動装置のデンシトメーターによる波形データは、上位コンピュータで前回時波形との重ね合わせによる照合が可能でありました。蛋白定量値や電気泳動によりM蛋白が疑われた時は、依頼の有無にかかわらず、キャピラリー電気泳動でモノ・バイクローナル抗体等の有無及び種類を同定し、疑われる疾患等のコメントを附記して報告していました。「先行検査」と呼ばれるこのようなシステムは、血液検査室での血算/末血像による白血病細胞検出時の、白血球表面マーカー測定でも行われており、いずれも追加検査を含めて、翌朝6:30までに報告しているそうです。検査料金の追加について朝比奈氏に伺いましたところ、「諸事情で戴けない場合もあります」と苦笑されましたが、「患者さんのためだけでなく、検査に従事する技師の勉強及び能力向上のためにも、これからも継続していく」と言われました。
 洗浄室・大型冷蔵庫も一階フロアにあり, 洗浄業務には4名が地元採用されておりました. また検体はこの冷蔵庫で約10日間保存されています。
 2階フロアは、血液、細菌、病理、輸血検査室で構成されていました。血液検査担当は13名で、7台の自動血球分析装置で1日5000件測定するそうです。末梢血液像や骨髄像については、独自の血液専門医のネットワークを利用しながら分析しており、前述の先行検査による白血球表面マーカー等とあわせ、月に4-5名の新たな白血病患者が検出されるそうです。また細菌検査には15名、病理は13名(うち細胞検査士7名)、輸血は3名がそれぞれの検査を担当していました。病理組織については、常時10名前後の病理医と契約して診断を行っているということでした。
 また、2階フロアの検査事務室の一角では、電話での相談や問い合わせに対し、常時6名の職員が応対していました(20:00までだそうです)。
 3階フロアは、総務部、役員室、食堂等の他に、全コンピュータ端末を統括しているシステム部がありました。この大型コンピューター(IBM AS400・ミラーリング)は、検査業務・物品管理・料金請求等ほとんどの業務を統括しています。担当職員は9名で、2-3交替で24時間稼働させていました。システムはサンリツの自社開発ということです。検査業務のデータ管理を一元化したことで、一人の患者さんの各種検査結果を各端末で一覧できる、すなわち異常値検出時の他検査の確認が、患者単位で簡単に行えるようになっていました。
 また、全フロアすべての検査毎に標準作業工程書が作成されており、機器のトラブルや異常値検出時の対応法に至るまで詳細に記述されていました。
 最後に、朝比奈・下川のお二人に、いわゆるブランチラボや、FMS方式などを含めた今後の見通しについてお伺いしましたところ、以下の様に答えられました.
 「現在サンリツによるブランチラボは11カ所27名で、元々は技師数名の少規模検査室の休暇時等の臨時応援が始まりでした。このような御施設では、技師の休暇取得や研修会参加が困難なばかりか、雇用や教育を含め安定した検査体制の維持は難しいと思われ、当社がお手伝いできる部分もあるかと思います。しかし、中規模以上の御施設では、各科の多数の医師とコミュニケーションを計り臨床のニーズに応えていくチーム医療が望まれており、極力病院雇用検査技師による検査体制が望ましいのではないでしょうか。
 また、現在臨床検査の経済効率が強く求められています。当社は, 迅速に正確な検査値を報告するという基本事項の上に、検査値に付随する多様な情報の提供や、診療の形態の変化に対応した柔軟な集配・検査体制を構築すること等、様々な役割をしっかりと果たしていきたいと考えております。
 当社は臨床検査を核としながらも、健康増進活動, 健康相談事業や、健診・予防医学的分野にも事業を展開しており、これからも総合的な地域医療の発展に貢献していきたいと考えております。」。
 見学に伺う以前は、検査センター全般に対し、検査の工場のようなイメージを抱いておりましたが、サンリツの各検査室の配置やコンピューターシステム、異常値検出時の対応には、むしろ病院内の木目の細かい大規模検査室といった雰囲気を感じました。また、常に厳しいコスト管理の必要にさらされる場にありながら、可能な限り臨床及び患者サイドに立った業務が行われていた事に対し、心からの敬意を表したいと思います。
 最後になりましたが、株式会社サンリツの皆様の、これからの益々のご発展をお祈りいたしますと共に、お忙しいところ、長時間にわたって取材させていただきました朝比奈取締役、下川部長、下条副部長、快く見学させていただきましたスタッフの皆様に深謝いたします。

【千臨技編集委員】
 清宮 正徳 千葉大学病院検査部 
 小野寺清隆 帝京大学市原病院病院病理部
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