千臨技会誌 2001 No.2 通巻82
シリーズ 細胞レベルの病理学
19.「腎外性悪性横紋筋肉腫様腫瘍」
千葉県こども病院           中山   茂
千葉大学医学部第一病理学     梅宮 敏文
千葉社会保険病院           岸澤   充
講   義 臨床検査医学からみたアルコール医学 千葉大学医学部臨床検査医学講座 教授
                     野村文夫 先生
研   究 当院において分離されたO-157以外のVero毒素産生大腸菌(VTEC)について 千葉大学医学部附属病院検査部
     村田 正太  久保勢津子  渡邉 正治

     斉藤 知子  宮部安規子  菅野 治重
同臨床検査医学講座
        野村 文夫
資   料 ISO9001取得実践資料 亀田総合病院 臨床検査室   庄司 和行
施設紹介 成田赤十字病院      

シリーズ
細胞レベルの病理学
19.「腎外性悪性横紋筋肉腫様腫瘍」
(extrarenal mailgnant rhabdoid tumor)
千葉県こども病院    中 山    茂
千葉大学医学部第一病理学    梅 宮 敏 文
千葉社会保険病院    岸澤     充

【はじめに】
 malignant rhabdoid tumor of the kidney (MRTK)は小児の腎臓に発生するきわめて予後不良な腫瘍であるが、全く同様の組織像を示し腎外に発生するものもごくまれに見られ、extrarenal malignant rhabdoid tumor (ERRT)として報告されている。本腫瘍は小児ないし若年者に好発し、予後不良とされている。
 ERRTは、明瞭な核小体を示す核と約10nmの中間径フィラメントからなる特有の細胞質内封入体を特徴とし、横紋筋への分化は認められない。本症は文献的にも小児期に好発するとされており、その発生はごくまれではあるが、小児期の主要な疾患である神経芽腫、横紋筋肉腫、悪性リンパ腫、Ewing肉腫などと共に念頭に置かなければならない腫瘍の一つである。
 本症の発生部位は、旁脊椎、骨盤腔、恥骨前、頸部などの軟部組織、心臓、前立腺など多数の臓器からの報告が見られる。

【組織像】
 症例は4ヶ月女児。両下肢の運動低下が認められ、X線、MRI検査等にて、左旁脊椎ならびに脊髄管内への腫瘍の浸潤が認められた。脊髄圧迫による麻痺を取り除くため、椎弓切除、脊髄管内及び背部腫瘤の切除術が行われたが、術後4ヶ月にて死亡した。
 本病変は未分化な円形細胞が主体を示す。本病変の最も特徴的な所見は腎のrhabdoid腫瘍に見られるものと同様で、好酸性、すりガラス様の細胞質を持ち、しばしば球状の硝子様の細胞質内封入体が偏在する核に近接して認められる。免疫組織化学染色においては、間葉系のマーカーであるvimentinや上皮性マーカーに陽性で、間葉系とともに上皮組織への分化など多様性を示すとされている。

【電顕的観察】
 腫瘍細胞は卵円形ないし多角形で、核は偏在性を示し、大きな核小体が目立つ。最も特徴的な所見として細胞質内に約10nm幅の中間径フィラメントの集塊が認められる。
写真-1 H・E染色
明瞭な核小体を有する腫瘍細胞の核は偏在性を示し、細胞質内封入体(矢印)
が見られる。
写真-2 免疫組織化学染色(Vimentin)
多くの細胞の細胞質に陽性を示し、特に細胞質内封入体に合致して球状に強く
反応している。

写真-3
 明瞭な核小体を有し、核は偏在性を示している。
細胞質内線維の集塊が見られる。
    (矢印)

N:核
(bar=4μm)
写真-4
細胞質内線維は束状あるいは渦巻状に増殖する中間径フィラメントよりなっている。

M:ミトコンドリア
L:脂肪滴

N:核
(bar=1μm)

【参考文献】
1)恒吉 正澄:病理組織診断における電子顕微鏡の有用性.病理と臨床 臨増 10:426〜427,文光堂,1992
2 )蛭田 啓之:病理と臨床.Vol.11 No.1 93〜99,文光堂,東京,1993

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講   義
臨床検査医学からみたアルコール医学
千葉大学医学部臨床検査医学講座 教授
野 村 文 夫

表1 習慣飲酒の診断マーカー
日常診療上測定可能なもの
γ-GTP(GGT)
MCV
IgA
HDL-cholesterol

測定キットはあるが、保険未承認のもの
CDT

研究室レベルのもの
Acetaldehyde-Homoglbin Adduct
Erythrocyte Aldehyde Dehydrogenase
Urinary Dolichols  など
 慢性肝障害の2大要因は肝炎ウイルス群と習慣飲酒である。わが国の肝硬変症例において、純粋にアルコールのみに起因する症例の割合は10-15%に過ぎないとされている。しかし、これは主として大学病院などを対象にして得られた数字であり、200万人を越えると予想されるアルコール依存症の存在を考えると、医療機関を受診する機会がないアルコール性肝障害患者が多数潜在していると予想される。また、習慣飲酒は脳出血、高血圧、痛風などの増悪因子でもあり、問題飲酒者を早期に、かつ的確にスクリーニングすることは極めて重要である。
 アルコールによる臓器障害の診断の第一歩は正確な飲酒歴の把握であるが、アルコール依存は否認の病気と言われ、常習飲酒家が、その飲酒量を正確に申告しないのは古今東西変わりがない。したがって、その裏付けとなる客観的なマーカーが必要である。
 アルコール関連マーカーは、(1)飲酒量が反映されるマーカー、(2)アルコール性臓器障害の程度をみるためのマーカー、(3)アルコール代謝関連酵素の遺伝子型(発症の素因をみる)の3つに分けられる。ここでは(1)と(3)をとりあげる。
1.飲酒量が反映されるマーカー(表1)
 習慣飲酒のマーカーとしてもっとも広く測定されているのは、μ-GTP(GGT)であるが、飲酒家がGGT高値を示す場合でも、その値は肝病変の重症度や積算飲酒量とは必ずしも相関せず、またアルコール飲用後のGGTの変化には個体差があり、大量飲酒後にも上昇しない、いわゆるnon-responderが10-20%程度存在する。
一方、飲酒習慣がなく、しかも肥満、抗痙攣薬の常用など、GGT上昇因子がないにもかかわらず、異常値をとる場合もあり、職場健診などでGGT高値=アルコールといった短絡的指導が行われてしまう場合も少なくない。したがって、GGTと相補的な新たなマーカーが必要である。この分野では、近年様々な展開がみられている。
 エタノールの第一代謝産物であるアセトアルデヒドは反応性に富み、種々の蛋白においてacetaldehyde adductを形成する。 acetaldehyde-protein adduct、例えばacetaldehyde-hemoglobin adduct をイムノアッセイなどにより検出する試みがなされている。魅力的なマーカーであり、糖尿病におけるHbA
cのように飲酒量を過去にさかのぼって推測できれば極めて実用的なマーカーとなるが、感度に難があり、現時点では一般化していない。
 習慣飲酒の検査マーカーとして現在もっとも有望なのが、血清トランスフェリンの糖鎖微小変異あるいは糖鎖欠損トランスフェリンである。長期飲酒の結果トランスフェリンをはじめとする糖蛋白の糖鎖形成不全がひきおこされる。とくに糖鎖欠損トランスフェリン(CDT)とよばれるシアル酸含量が正常よりも少ないトランスフェリンが過度の飲酒により出現することが知られている。当初報告された方法は等電点電気泳動やWestern blotting が必要で多数の検体の処理には不向きであったが、イオン交換カラムによりCDTを分離した後、イムノアッセイ(TIA, RIA)により測定し、絶対値あるいは総トランスフェリンに対する%で表示する簡便なキットが登場した。Axis社%CDT-TIA法を用いた筆者らの検討でも、その異常率(陽性率)は問題飲酒量とされる3合を境に上昇した(表2)。

表2 飲酒習慣別血清%CDT値と常習飲酒家の陽性率

日本酒換算毎日3合以上の飲酒を5年以上続けている常習飲酒家においてCDT、GGTが異常値を示す割合はそれぞれ20.2%、47.5%であったが、いずれかが上昇している場合を陽性とすると、61.6%が異常値を示した。つまり、GGTのnon-responderの一部をCDTが拾いあげたことになり、GGTとCDTは互いに相補的なマーカーといえる。大酒家におけるCDTの出現機序としては、ゴルジ装置におけるglycosylationの障害に加えて、肝細胞膜のアシアロ糖蛋白受容体数の減少によるクリアランスの障害、さらにはシアリダーゼ活性の増加などが想定されている。
2.アルコール代謝関連酵素の遺伝子型
 ヒトのアルコール代謝関連酵素の遺伝的多型の中で、臨床的意義がもっとも明確にされているのはアセトアルデヒド脱水素酵素ALDH2の多型である。ALDH2の変異型(不活性型)ALDH2*2、正常型 ALDH2*1の組み合わせにより3群に分かれるが、2*1/2*1:2*1/2*2:2*2/2*2はわが国の一般集団では59:34:7であるのに対し、アルコール依存症では90:10:0と変異型を有する例は極めて少ない。ALDH2*1/2*2は飲むとすぐに紅くなるが、ゆっくりであればビール大瓶一本程度は飲める人に相当し、ALDH2*2/2*2はビールをコップ半杯程度がやっとの人にあたるが、ALDH2*2 をもつことにより飲酒に強力なブレーキがかかる。すなわちALDH2*2はアルコール依存症における疾患抵抗性遺伝子といえる。飲酒量が一定量以上に達してはじめて発症するアルコール性肝障害患者ではALDH2*1/2*1の場合が圧倒的に多いが、一部のALDH2*1/2*2保有者はアルコール処理能力が劣っているにもかかわらず習慣飲酒を続け、ALDH2*1/2*1保有者より少ない飲酒量でアルコール性肝障害を引き起こす可能性が指摘されている。 
  ALDH2遺伝子は第12染色体(12q24)に存在し、13個のexonと12個のintronからなる。exon12に存在する487GluのコドンGAAの第1番目のGがAに置換し、Lysへのミスセンス変異を起こしたものが上記の疾患抵抗性遺伝子ALDH2*2であり、多型としてモンゴロイドに見いだされる。ALDH2アイソザイムは4量体を形成するが、GluがLysに変化したサブユニットを含むと4量体が構造的に不安定となり、酵素活性がほとんど認められなくなる。事実、ALDH2*2/ALDH2*2のヒト肝におけるALDH2活性は検出されずALDH2*1/ALDH2*2 ではALDH2*1/ALDH2*1の約10%を示すとされている。ALDH2*2 となる変異、すなわち487番目アミノ酸のコドンGAAのG→Aを検出する方法は種々あるが、ここでは筆者らが用いている蛍光プライマーによるPCR-SSCP法を示す。
 SSCPの検出を容易にするために5‘末端をindodicarbocyanine fluorescencedye (Cy5)でラベルしたものを用いる。すなわち、forward:Cy5-CAAATTACAGGGT CAACTGCT、reverse:Cy5-CCACACT CACAGTTTTCACTTとなる。目的領域135bpのPCR産物1μlに変性剤(99.5%ホルムアミド、0.5% Blue dextran) 14 μlを加え、加熱後氷冷し、DNAシークエンサー(ALF express, Pharmacia)により、10%ポリアクリルアミド電気泳動により分画する。図1に実際のSSCPパターンを示した。図中には示していないが、SSCP法において非定型バンドを示したサンプルについては直接塩基配列を決定し、各パターンがそれぞれG/G、G/A、A/Aであることを確認したうえで、多数例の検体に応用する。
図1 蛍光プライマーによるPCR-SSCPを用いた
ALDH2遺伝子変異の検出

(おわりに)    
 病識が不十分で病院から遠ざかりがちなアルコール性肝障害患者の外来管理には多くの困難が伴う。患者のことばを疑ってかかることは好ましくないが、飲酒量が反映される客観的なマーカーがやはり求められる。それは、習慣飲酒により増悪する可能性がある多くの生活習慣病の診療においても有用となるはずである。
 
(追記)
 当日の講演の最後にご案内しましたが、平成13年度より千葉大学医学部の機構が大きく変わり、いわゆる大学院重点化が実現されます。それに伴い、従来の医学部臨床検査医学講座は千葉大学大学院医学研究院分子病態解析学と呼称が変わります。
これを機に、検査技師の皆さんにとって大学院入学の門戸がさらに広くなるように私も動きました。すなわち、検査技師の日常業務を行いながら、昼夜開講
型の大学院生として研究に従事し、学位(医学博士)を取得することが可能なシステムを作りつつあり、現在すでに2名がこのような形で在籍しています。
修士を取得しているか、それ以外の場合でも一定の研究歴があれば受験することが可能です。興味とファイトをお持ちの方はご遠慮なくご連絡下さい。
(043-226-2324 野村)

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研  究
当院において分離されたO157以外の
Vero毒素産生性大腸菌(VTEC)について
千葉大学医学部附属病院検査部 同臨床検査医学講座*
村 田 正 太   久保勢 律 子
  渡 邉 正 治  
宮 部 安規子  菅 野 治 重   野 村 文 夫


要旨
 腸管出血性大腸菌による集団食中毒が多発した1996年以降、千葉大学医学部附属病院では逆受身ラテックス凝集反応(RPLA)によるVT産生試験を実施するようになり、2000年11月までの期間に分離されたO157以外のVero毒素産生性大腸菌(verocytotoxin(VT)-producing Escherichia coli,VTEC)は3症例3株であった。2症例2株は市中感染糞便より分離され、VT1産生O117:HutとVT2産生E.coliO114:H18であった。残り1症例1株は留置カテ尿より分離され、自動機器による同定感受性検査において「O157疑い」のコメントがあり精査の結果、VT2のバリアントであるVT2VP1産生E.coliO74:H-であることが確認された。この株は、RPLAでの凝集が弱く判定に苦慮し、エンテロヘモリジンによる溶血性を指標としたVTのスクリーニング培地であるBeutinらのカルシウム添加洗浄羊血液寒天培地を利用した生培地において溶血を示さず、VT非産生性と判定された。また糞便より分離された2株は溶血を示しVT産生性と判定された。
Key Words: Vero毒素産生性大腸菌(VTEC)、VTEC- 逆受身ラテックス凝集反応
、 VT2
VP1遺伝子、Beutinらのカルシウム添加洗浄羊血液寒天培地
 3類感染症である腸管出血性大腸菌感染症は、Vero毒素産生性大腸菌(verocytotoxin(VT)-producing Escherichia coli,VTEC){あるいは志賀毒素産生性大腸菌(shiga toxin-producing E.coli,STECとも呼ばれる)}が起炎菌であり、多くの血清型はO157である。しかしO157以外の血清型によるVTECが存在し、国立感染症研究所によるとVTECの血清型は多種にわたることが示されている1)。また市販血清に含まれない血清型も存在するためVTECの検出にはVTの検査が必須である。このようなことから当検査室では市中感染が疑われる糞便検体から分離されたE.coliに対して、逆受身ラテックス凝集反応(RPLA)によるVT産生試験を行い、VT産生性が認められた場合に血清型を調べている。この検査体制から糞便由来のnon-O157VTEC2株を分離した。また留置カテ尿からもnon-O157VTEC1株を分離した。これは日常検査に用いている全自動細菌検査システムWalkAway(DADE)を用いた同定感受性試験においてE.coliと同定され、ソルビット非分解性であることから「O157疑い」のコメントがあった。このことよりVTECの確認をするためVT産生試験を行い、VT2ラテックスに弱い凝集が認められ判定に苦慮したことから千葉県衛生研究所に精査を依頼し、PCR法によるVT遺伝子解析等の検査を行った。この株および糞便由来のnon-O157VTEC2株に関して、VTEC検出に関連する検査成績から若干の知見を得たので報告する。

対象および方法
1.対象
VT産生試験を実施するようになった1996年以降、2000年11月までの期間中、当検査室に提出された臨床材料から分離され、市中感染糞便由来のVT1産生E.coliO117:Hut(untypable)(株:以下C-1)とVT2産生E.coliO114:H18(株:以下C-2)の2株と、留置カテ尿由来E.coli(株No.C-3:以下C-3)を対象とした。対照としてVT1とVT2の両方に対して産生性を有するO157:H7と日常検査に使用している5%羊血液寒天培地(BA)におけるVT非産生溶血株とVT非産生E.coli非溶血株を用いた。
2. 方法
1)VTの検出
‡@RPLA
トリプチケースソイブロス(BBL)で一夜振とう培養後、ポリミキシンB溶液を作用させ、3000rpm15分間遠心分離し上清中のVTを大腸菌ベロトキシン検出用キット(デンカ生研)にて測定した。
‡ABeutinらのカルシウム添加洗浄羊血液寒天培地
2)(WSBA-Ca)およびBAでの溶血性
WSBA-Caはエンテロヘモリジンによる溶血性を指標としたVTのスクリーニング培地であり、エンテロヘモリジン血液寒天培地(関東化学)とEHT寒天培地(極東製薬)を用い、約3時間と約20時間培養後の2回溶血性を確認した。BAはトリプチケース ソイ‡U5%ヒツジ血液寒天培地(BBL)を用い一夜培養後溶血性を確認した。
2)O157の選択分離培地における発育確認
ソルビットが添加されたSIB寒天生培地(極東製薬)とソルビット加マッコンキー寒天培地に抗菌薬(セフィキシム、亜テルル酸カリウム)の添加さたCT-SMAC寒天培地(ビオメリュー)に菌量10
cfu/mlを1白金耳接種し、一夜培養後発育の有無を確認した。
3)PCR法によるVT遺伝子の検出
BHIブロス培養液の3μlを100℃で5分間加熱し、試料とした。プライマーは、VT1とVT2に対しては小林ら
)の、VT2VP1に対してはJohnsonら4)のプライマー
をそれぞれ用いた。PCRの条件は、変性94℃30秒、アニーリング55℃30秒、伸長72℃30秒を1サイクルとし25回増幅した。PCR産物を2%アガロース電気泳動後、エチジウムブロマイド染色により観察した。
4)自動機器での同定感受性試験
全自動細菌検査システム、WalkAway(DADE)を用いた。

結果表1
図1 RPLAによる凝集像とシェーマ
図2 PCR法によるVT遺伝子の検出
1.VTの検出
1)RPLA:図1に凝集像とシェーマを示した。対照として用いたO157はシート状の強い凝集像が認められ、C-1とC-2についても同様な強さの凝集像であった。C-3はVT2に弱い凝集が認められた。
2)WSBA-CaおよびBAでの溶血性:各社の接種方法に従い、エンテロヘモリジン血液寒天培地では画線したコロニーの周りに、EHT寒天培地では穿刺した周りに両培地とも同様な溶血性を認めた。培養開始約3時間後にVT産生株は溶血を示さなかった。しかし対照のVT非産生 溶血株だけが溶血を認めた。約20時間後にはVT産生株で溶血が認められそのうちC-3だけが溶血を示さなかった。またこのVT産生株の溶血像は対照VT非産生 溶血株の溶血像に比べ弱かった。BAでの溶血性では、対照VT非産生 溶血株だけが溶血を認めた。
2.O157の選択分離培地における発育確認:SIB培地では、すべての菌株で発育を認め、対照E.coliO157とC-3はソルビットを分解せず透明コロニーとなり、他の株はソルビットを分解して赤色コロニーとなった。CT-SMAC培地では、対照E.coliO157とC-2のみ発育を認めた。
3.PCR法によるVT遺伝子の検出:図2にPCR法によるVT遺伝子の検出を示した。C-1とC-2は、それぞれに対応したVT遺伝子が認められた。C-3のVT2プライマーに対して471bpにC-2よりも薄いバンドとして現れ、VT2のバリアント遺伝子であるプライマーを使用したところ、230bpに強いバンドが出現し、VT2VP1遺伝子であることが確認され、VT2
VP1産生E.coliと同定され血清型はO74:H-であった。
4. 自動機器での同定感受性試験:対照E.coliO157とC-3はソルビット非分解性となり自動機器からのコメントで「O157疑い」となった。

考察
図3 市中感染の糞便培養システム−VT検出に対して−
 当検査室では市中感染の糞便培養システムとして、特にVT検出に対して図3のように検査を進めており血清型主体の検査ではなくVT検出に主眼をおいている。今回のようにE.coliO157以外にもVTECが存在しその同定にはVT産生性の有無が重要である為、血清型検査はVT産生性が認められた後、もしくは特に腸管出血性大腸菌感染症が疑われるときに行う。疫学的にVT産生性の出現頻度の高い血清型が示されているので血清型を調べることは有用となる。また3類感染症である腸管出血性大腸菌症届出のための基準5)のなかに病原体の検出としてベロ毒素産生性またはベロ毒素遺伝子の確認が必要と記載されており、血清型に関しては備考に本症の診断には血清型の如何は問わない、報告に際しては血清型をあわせて報告することが望ましいと但し書きがある。今回の当検査室でのRPLAによるVT検出は糞便培養後、大腸菌様コロニーを液体培地で一夜培養する方法であったが、これより迅速にVTを検出するコロニーの掻き取り法6)がある。この方法では、培養1日目の分離培地上の濃厚発育部分のコロニーを掻き取りポリミキシンB溶液に浮遊させ、遠心後上清中のVTをその日中に検出するというものである。この方法を用いれば我々より2日早いVT検出が可能となる。
今回留置カテ尿より分離されたC-3はソルビット非分解性であり、自動機器からのコメントでO157疑いとなり、VT産生性を調べるに至った例で、RPLAにてVT産生性を調べたところVT2に弱い凝集が認められた。また初代分離株での凝集像は図1よりも微弱であり判定が困難であった。このため千葉県衛生研究所に精査を依頼した結果、VT2プライマーに対して471bpにC-2よりも極薄いバンドとして現れた。このバンドに比べVT2
VP1プライマーにて増幅された230bpのバンドは明らかに強いバンドが出現し、VT2VP1遺伝子を持った株であると同定し、ベロ細胞に細胞傷害性を認めていた。このVT2VP1産生性株はRPLAで使用されているVT2感作ラテックスに反応性が弱い事がわかった。このことは甲斐ら7)の報告にもあるようにVT2e産生性(VT2VP1産生性)8株のうちRPLAで4株は陽性で4株は陰性であったとしている。
 WSBA-Caは洗浄羊赤血球にカルシウムを添加した血液寒天培地でありエンテロヘモリジン(EHLY)を約20時間培養後の溶血として検出できる培地であり日常検査に使用しているBAでは検出ができない。また約3時間培養後の溶血は -ヘモリジンによる溶血でありEHLYと区別される。この溶血はBAにおいても観察される。Beutinら
2)はVT産生性株において89%の株はEHLY産生性を有することからVT産生性株検出のための指標となるとしているがVT非産生性株のなかにもEHLY産生性株の存在を報告している。また今回のVT2VP1産生性株は溶血を示さず、Beutinら8)の報告と同様であった。このことからVT2VP1産生性株はこの培地では検出できないことが示唆された。このようなことからあくまでもスクリーニングとして使用しVT産生性およびベロ毒素遺伝子の確認が必要となる。
 CT-SMACはソルビット遅分解性とセフィキシム、亜テルル酸カリウム耐性というO157の特徴を利用した選択分離培地であり対照O157のみが釣菌対象となった。SIBではCT-SMACと同様に糖としてソルビットが添加されておりその分解性により釣菌対象が決定する。今回は対照O157とC-3がO157様のコロニーと判定され釣菌対象となったがそれ以外は対象外であった。CT-SMACおよびSIBは本来O157用の培地であるためO157以外のVTECには適さないことが再確認された。しかしSIBでソルビット分解株も釣菌対象にすればO157以外のVTECを検出することも可能となる。よってO157以外のVTECを検出するためには腸内細菌全般が発育する分離培地から糖分解能に関係なく釣菌が必要である。
 腸管出血性大腸菌感染症の起炎菌はVTECでありO157以外にもそれは存在し、今回当検査室でE.coliO157以外のVTECを検出できたのはVT産生性に主眼をおいて検査を進めたことによると思われる。またRPLAでの僅かな凝集の中に、VT産生性を示唆することもあるので注意をようする。

謝辞
 稿を終えるにあたり、遺伝子解析等の多大なるご協力、ご指導して頂いた千葉県衛生研究所の主任研究員 内村眞佐子先生に深謝致します。
1)田村和満ほか:O157以外の腸管出血性大腸菌(EHEC)の血清型別成績. 病原微生物検出情報 21:94, 2000
2)Beutin, L et al:Close association of verotoxin(Shiga-like toxin) production with enterohemolysin production in strains of Escherichia coli.J.Clin.Microbiol.27:2559-2564, 1989
3)小林一寛ほか:遺伝子増幅法(PCR)による志賀赤痢菌様毒素遺伝子の検出とその型別法. 日本細菌学雑誌. 45:649-652, 1990
4)Johnson, WM et al :Differentiation of genes coding for Escherichia coli verotoxin 2 and the verotoxin associated with porcine edema disease(VTe) by the polymerase chain reaction. J.Clin.Microbiol. 28:2351-235
3, 1990
5)医師から都道府県知事等への届出のための基準:厚生省保健医療局結核感染症課, 1999
6)内村眞佐子:便からのベロ毒素の検出法. 検査と技術 28:231-236, 2000
7)甲斐明美ほか:ラテックス凝集反応法によるVero毒素産生性大腸菌の同定:大腸菌ベロトキシン検出用試薬の評価. 感染症学雑誌. 71:248-254, 1997
8)Beutin, L et al:Rapid detection and isolation of Shiga-like toxin(Verocytotoxin)-producing Escherichia coli by direct testing of individual enterohemolytic colonies from washed sheep blood agar plates in theVTEC-RPLA assay.
J.Clin.Microbiol.34:2812-2814, 1996

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資  料
ISO9001取得実践資料
亀田総合病院 臨床検査室
庄 司 和 行


昨年秋、関東甲信地区学会が幕張メッセにて開催され成功裏に終了した。その時イブニングセミナーにて、当病院に於けるISO9001の取得について講演させて戴いた。その後、他施設の皆様から、ISOについて具体的な質問が寄せられ、取得準備されている施設が多くあることが分かった。
 そこで病院全体でも、検査室の検体検査だけでも、あるいは登録衛生検査所でも、参考になるような、1次文章から4次文章の記録類まで含んだ、名称掲
示の資料を作ってみた。
 但し基本的には検査室側から見た物であり、立場と品質対象により、必要の無い資料や統廃合する文書・表示されていない資料も有ると思うが、必要最小限度の文書名は上げたつもりで有る。もちろん要求事項20項にダブる文書も多々有るが、これは表示していない。
尚、文章の中身は多岐にわたるため、参考資料としては割愛致したが、連絡戴ければ出来る限りのご説明は致します。
是非、個人的な参考資料としてお使い戴ければ幸いです。
《規定作製例》規定種別により、
     追加内容や削除も有ります
1.目的
2.適応範囲
3.主管部署
4.用語の定義
5.業務手順の前置き(トレース含む)
6.安全性・環境維持
7.不適合対応
8.是正・予防処置
9.記録管理
10.教育・訓練
11.フローチャート等
 《ISO9001関連文書及び品質記録一覧表別紙
 例》別紙

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施設紹介


成 田 赤 十 字 病 院


 時折吹く風はまだ冷たいものの、陽射しは暖かい2月20日、成田赤十字病院を訪ねました。成田赤十字病院は、成田市の南部・東関道の富里インターより約2.5km程の市街地にあり、付近には“公津の杜”という新興住宅地が広がっています。
 成田赤十字病院は昭和23年2月、元の海軍病院より日本赤十字社に移管され、病床数100床で開設されました。以後、北総地域の中核病院として発展、平成10年8月に新本館増改築工事着工、昨年6月に地上8階・地下1階建ての新本館のA棟がオープンし、今年2月4日竣工式が行なわれたばかりです。
 診療科は内科・外科をはじめ、心臓血管外科など全18科、病床数は一般662床、精神50床の他、感染症20床(うち2床は一類感染症に対応可能)の計732床を擁しています。また、健康管理センター(人間ドック)、透析センター、新生児センター(NICU)をはじめ、無菌治療室や救急救命センターなどを併設する他、災害拠点病院として災害備蓄倉庫や、救護所として活用できる講堂なども設備されていて、ヘリポートも現在計画中だそうです。さらに成田空港関連では、一類感染症発生時に備えての訓練が、今年初めて空港と合同で行なわれる予定だということです。
 さて、検査部は大きく検体部門と生理部門に分けられ、検体検査部門はこの新本館(A棟)2階に位置し、オーダーリングシステムに対応しています。まず、中央採血・採尿室は看護部と共同運営で、検査部からは助手の方が3名、受付業務や採血管などの準備を担当しています。この中央採血・採尿室に隣接して一般検査室があり、4
名の方が担当しています。この奥に各検査室が配置され、中央採血室からの検体は随時、検査部のスタッフにより運ばれますが、各病棟からの検体は委託業者によって、総合受付に運ばれて来ます。
分析系の検査は、バーコードによる検体到着確認後、自動分注機によって化学、免疫血清の各分析機ごとに分注される仕組みになっています。この検体検査室は検体受付1名、生化学・免疫血清5名、血液3名で担当、ワンフロアとなっていて各担当者が出来るだけ流動的に対応できる体制をとっているとのことです。血液では、血算・血液像・凝固系に加え、今まで各科病棟で行なわれていた赤沈を、自動機器で一括して行なっています。従来の赤沈棒に代えて四角い容器を使用し、一定の角度に傾けることで時間短縮(約40分)されるそうです。
 検体検査の各分析装置やデータ管理システム、試薬類は大手企業との検査室共同事業運営としての契約(FMS方式)で供給されています。近年注目されているこの方式ですが、成田赤十字病院では生化学に関しては、約15年前より採用しているとのことでした。ただし、企業側からの人材派遣は無く、病院職員で運用されているということです。また、試薬類もバーコードによる定数管理とすることで必要以上の在庫を無くし、試薬の保管を1ヶ所の冷蔵室にすることにより、省スペース化を図っています。3ヶ月に1回検査部と企業とで試薬類の検討などの会議が行なわれ、基本的に契約の範囲内であれば検査部の意向は、ほぼ反映されるとのことでした。
 輸血検査室内には、供給血へのX線照射装置や、将来稼動予定の成分献血室なども設置され、2名の方がクロスマッチや輸血用血液の管理などを担当しています。
 さらに中廊下沿いに細菌、病理の検査室が並んでいます。細菌検査室には3名、病理細胞診検査室に5名の方がそれぞれ担当されています。病理検査室は専用通路で手術室とつながっていて、術中迅速診断や検体の肉眼写真撮影などがスムーズに行なえるようになっています。
 生理部門はA棟に隣接するF棟1階に位置し、検査室受付の前には外来と同じような広い待合スペースが設けられています。生理機能・超音波合わせて約10名で担当され、心電図・呼吸機能・脳波などの他、超音波では5台の汎用機を使用して心臓・腹部など合わせてその数、月に約1500件だそうです。
また、トレッドミルやホルター心電図は循環器検査室として、聴性脳幹反応などは神経生理検査室として別に設置されています。これら検査室での業務に加え、病棟への出張検査や健康管理センター内での人間ドック(心電図・呼吸機能・超音波・聴力)も随時担当されています。早出の方は朝7:30出勤、9:30までにドッグでエコーを25人程こなして検査室に戻るとか…。さらに5年ほど前より、心臓カテーテル検査の際の心電図や血管内エコーなども臨床工学士の方達とともにチームを組み、週4日・2名ずつがこの業務にあたられています。また時間外に関しても、検体部門の日当直や病理の解剖拘束同様、心臓カテーテル検査や脳死判定脳波検査、超音波検査拘束を実施し、緊急検査体制を整えているそうです。
 検査部の面積としては今までとそれほど変わっていない、というお話でしたが、オーダーリングやシステムの充実、受付から検査までの実際の検体の動きを考えたレイアウトなど、とても効率的・機能的な印象を受けました。
また、1階と2階に検査室が分かれた形になっていますが、検査部内・各検査室間の連携は、月1回の役職者会議や、適宜行なわれる業務会議などでとられているそうです。
 各種管理やサービス向上、学術(院内研究発表)など約15ほどの委員会にも検査部から参加し、院内各部との連絡がとられています。
 最後になりましたが、お忙しい時間帯に取材させていただきました清和技師長はじめ、飯田課長、長谷川課長、快く見学させてくださいました各検査室の皆様に御礼申し上げます。ありがとうございました。

【千臨技編集委員】
 小野寺清隆(帝京大学市原病院)
 小林美智子(千葉県赤十字血液センター)    
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