千臨技会誌 2003 No.1 通巻87

シリーズ 細胞レベルの病理学
24.顆粒欠損(低形成)好中球
千葉大学大学院医学研究院腫瘍病理学     梅 宮 敏 文
               千葉県こども病院     中 山   茂
               千葉社会保険病院     岸 澤   充

講   議 金属アレルギー検査(パッチテスト)   
Metal allergy testing (Patch test)
東京歯科大学千葉病院臨床検査部
                      才 藤 純 一
研   究 検査技師が携わる体外受精
−エンブリオロジストとして   
     不妊コーディネーターとして−
松戸市立病院 臨床検査科
     橋本 和美
1) 田巻 勇次2) 駒木 吉伸1)
     中山 幸子
1) 白熊 昭司1)
                     1)臨床検査科 2)産婦人科
研   究 症 例
肝放線菌症の1症例
国保君津中央病院  検査科 細菌室
○高橋弘志、秋倉史、岩間暁子、嶋野美和
   HCV検査の現状 千葉市立海浜病院
       村 澤 利 延
施設紹介 東邦大学医学部付属佐倉病院  



シリーズ
細胞レベルの病理学
24.顆粒欠損(低形成)好中球
 千葉大学大学院医学研究院腫瘍病理学      梅宮 敏文 
千葉県こども病院       中山   茂 
千葉社会保険病院       岸澤   充 

はじめに
 好中球には一次顆粒あるいは二次顆粒の欠損(あるいは低形成)が時としてみられる。これらの異常、特に二次顆粒の欠損は、急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群においてしばしばみられ、異形成の一つとされる。今回はこの顆粒欠損好中球を中心に好中球顆粒について述べる。
【成熟顆粒球の生成】
 顆粒球はその胞体に存在する顆粒の種類によって好中球、好酸球、好塩基球に分けられる。一般に骨髄内で顆粒球系に分化した細胞は前骨髄球の段階ではじめて好中球、好酸球、好塩基球の特徴が形態的に与えられる。骨髄で分化成熟の過程にある顆粒球は骨髄球に至まで核小体を持ち、分裂・増殖能を有するが、後骨髄球以後の成熟細胞は核小体の縮小および消褪とともにNOR関連蛋白の消失を来して増殖不能となり骨髄の類洞を経て抹消血中へ放出される。
【顆粒球成熟段階の形態的変化】
 形態的に認められる顆粒球系細胞の最も未熟な細胞は骨髄芽球である。繊細な核クロマチンを有し、明瞭な核小体が1〜2個存在する。顆粒は殆ど認められない。
 前骨髄球になると胞体は大型化し、核が遍在すると同時に核膜や粗面小胞体(RER)のペルオキシダーゼ(POX)反応が陽性となり、Golgi装置が発達してPOX陽性の一次、顆粒(アズール顆粒)が豊富に出現する。
 骨髄球の段階では核膜、RER、Golgi装置のPOXは陰性となり、好中球では一次顆粒が減少し、POX陰性の二次顆粒(特殊顆粒)が出現する。好中球の顆粒は正常で200個くらいあるがその1/3は電子密度の高い一次顆粒の残存で、2/3は二次顆粒である。
【一次および二次顆粒の生理的役割り】
 一次顆粒にはPOX、酸性水解酵素、リゾチーム、エラスターゼなどの酵素や殺菌作用に関係する一群の陽性荷電蛋白、硫酸ムコ多糖類などが含まれる。
 二次顆粒はラクトフェリン、リゾチーム、プラスミノゲン・アクチベータ、コラゲナーゼなどを含み、一次顆粒とともに好中球機能に重要な役割を演じている。顆粒形態は多様で、内在する酵素などの量的差も関係しているようである。
【電顕的特徴】
 成熟好中球の核は杆状または分葉し、クロマチンは核の中央部および周縁部に凝集している。細胞質内には多数の顆粒が存在するが、ミトコンドリア、小胞体などの小器官に乏しい。Golgi装置は小型である。顆粒は大きさ、形、密度に多様性があり、大型(O.5μm)、円形、高密度の顆粒は一次顆粒(primary granule PG)、小型(0.3μm)、棍棒状、低密度の顆粒を二次顆粒(secondary granule SG)とよばれる。電顕標本でもPO染色を施すと一次、二次顆粒の区別が容易になり、両顆粒の正確な識別にはペルオキシダーゼ反応が必須である。
【疾患および病態】
 ミエロペルオキシダーゼ欠損
1)先天性欠乏症
 割と多いが、臨床症状は殆ど示さない。
2)後天性欠損
 ことに骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)における顆粒球系の異形成の一つとされる。
 二次顆粒欠損好中球は骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病以外では極めて稀である。ペルオキシダーゼ欠乏一次顆粒は白血病などで高頻度にみられる。Golgi装置における分泌酵素の分配機構の異常により、一次顆粒間の酵素量の不均衡が起こるとされている。
【症例】
本症例は主病変が悪性貧血であり、電顕的に二次顆粒の欠損および低形成を認めた症例である。悪性貧血での二次顆粒低形成好中球の出現は極めて稀である。
症例提供:立石寿美子(済生会習志野病院)
【参考文献】
1.渡辺陽之輔:血液細胞電顕図譜;67-90,1990.文光堂 東京
2.三輪史朗:血液細胞アトラス3;251-272 Vo3.1981 文光堂 東京
3.検査血液学:血液の生理学と検査.白血球−病理と臨床,特97 48-57,1994
写真1 正常成熟好中球電顕像
一次顆粒PG(矢印)と二次顆粒SG(矢頭)がみられる.電子密度の違いに注目.
写真2 二次顆粒低形成好中球 POX染色
悪性貧血例の骨髄クロット標本.3個の成熟好中球を認める.一次顆粒はPOX陽性
写真3 同症例拡大像 POX染色
POX陽性の一次顆粒PGを認める.細胞小器官は乏しく、小型のゴルジGがみられる.
写真4 同症例 顆粒拡大像 POX染色
POX陽性の一次顆粒(矢印)を認めるが、二次顆粒は極めて少ない.

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講   議
金属アレルギー検査(パッチテスト)
Metal allergy testing (Patch test)
東京歯科大学千葉病院臨床検査部
              才 藤 純 一

はじめに
 花粉症をはじめとして、我々の生活を取り巻く環境には様々なアレルゲンの存在が知られ、花粉、ハウスダスト、食べ物、化粧品、楽器、食器、装飾品、医薬品にいたるまで、日常生活におけるアレルギー発症に社会的な関心が持たれている。その原因を調べ、極力その感作する要因を取り除くために?型アレルギー検査がある。この特異IgEアレルゲンはRASTやEAST、それを改良したCAPが検査方法としてあり、測定可能なアレルゲンは200種にも及ぶ。また一度に異なる多くのアレルゲンの検索ができるMAST(multiple antigen simultaneous test)法など多くの検査があり、日常の検査として行われている。しかし、生活用品や装飾品、化粧品などに含まれる種々の金属によりおこる?型アレルギーによって、異汗性湿疹、掌蹠嚢胞症、難治性粘膜皮膚疾患などが生じることが知られているが、積極的に検査としてはルチン化していないのが現状である。
 現在、金属アレルギー検査は、生体内で行うin vivo検査として皮内反応(Scrach test)、誘発試験(Challenge test)があるが、もっとも簡単で比較的安全な検査として皮膚貼付試験(Patch test)が多く用いられている。今回は東京歯科大学千葉病院の現状を紹介しながら金属アレルギー検査(パッチテスト)について解説する。
当歯科大における歯科医療
 歯科医療に金属は欠くことができないもので、歯科大学には歯牙欠損をレジンや金属により回復させる保存科(図1)、冠をかぶせ歯牙の外形を回復させたり、失われた歯牙欠損を補う義歯を作成する補綴科(図2)、歯列不整を金属ワイヤーにより治療する矯正科がある(図3)。また21世紀の新しい歯科治療として、チタンを使ったインプラント治療(人工歯根)が確立された治療法になっている。(図4)このように歯科治療は金属無くしては行えず、その用途も多岐にわたっている。これらの金属からイオンが溶出し、生体のコラーゲンとハプテンを作り、引き起こされる?型アレルギーによって口内炎、舌炎、扁平苔癬、異汗性湿疹、掌蹠嚢胞症、難治性粘膜皮膚疾患などが生じることが知られている。
図1.歯牙欠損を補うインレー 図2.金属の入歯(義歯)
図3. 矯正装置による治療 図4.インプラントにおける人工歯根の嵌植

【金属アレルギー(?型アレルギー)発生のメカニズム】
 装飾品などが汗に触れたり、口腔内の歯牙欠損部へ使われた金属が唾液に触れ、イオン化すると、上皮粘膜下組織の線維性組織と結合して、生体には存在しない異種蛋白になり、この時点でマクロファージ及びTリンパ球が異種蛋白を認識し、感作が成立すると考えられている。そして、生体が再び同じ金属に暴露されると、約48時間後にキラーTリンパ球によって紅斑や水疱など遅延型の細胞性免疫応答が起こる。
【金属アレルギー検査(パッチテスト)】
【試薬及び材料】
パッチテスト用絆創膏:Miniplaster(鳥居薬品), Finn Chamber(大正製薬)
パッチテスト用金属試薬:パッチテスト用金属試薬M-9シリーズ(鳥居薬品)
金属(17種類):Al,Au,Sn,Fe,Pt,Pd,In,Ir,Co,Hg,6Cr,3Cr,Cu,Ni,Zn,Mn,Ag

【患者へのインフォームドコンセント】
 歯科治療では、充填物や補綴物に費用がかかっている為に、いかに原因と思われる金属でも、患者さんは除去を拒むことが多い。それゆえ、患者さんの現在の臨床症状や口腔内の補綴物の確認をしてもらい、?型アレルギーの発生メカニズムの理解を求め同意を得た後に、原因金属を除去する可能性があることを告げ、パッチテストの際に守ってもらう事柄を書いた用紙を渡し再度確認する必要がある。

【検査方法】
?@鳥居薬品社製の17種類の金属試薬:Al,Au,Sn,Fe,Pt,Pd,In,Ir,Co,Hg,6Cr,3Cr,Cu,Niをパッチテスト用絆創膏(Miniplaster)に一滴ずつしみ込ませる。また、Zn,Mn,Ag は溶液となりにくく白色ワセリンに混和されているため、半米粒大程度をつける。
?A被験者の背中に貼付し、油性のペンにて金属名を皮膚に記入する。コントロールには生理食塩水をしみ込ませた絆創膏を使用する。
?B被験者は2日間(48時間)貼付し、来院する2時間前までにその絆創膏を取り外してもらう。(絆創膏を取り外した直後は蒸れた状態で、紅色や水疱の判別がつきにくい))
?C2日目(48時間)、3日目(72時間)、7日目の結果を国際皮膚炎学会によるICDRG基準に基づいて判定する。
ICDRG基準による判定
 (-):反応なし、(+?):弱い紅斑、(+):紅斑+浸潤+ときに丘疹
 (++):紅斑+浸潤+丘疹+小水疱、(+++):大水疱
【東歯大における金属アレルギー検査(パッチテスト)】
図5.金属アレルギー患者の臨床診断
図6.金属別アレルギー陽性数
【統計学的解析】
 当臨床検査部では1997年10月から2000年7月まで汗によって金属試薬が流れたり、汗による刺激反応をアレルギーと誤認する夏期間を除いて217症例を得た。年齢構成は、50歳代にピークを持つ中年層で、10歳代はアトピーなどの既往患者が多い傾向にあった。性別では女性が圧倒に多かったが、女性は装飾品をはじめ金属に触れる機会の多さが原因の一つであると考えられる。
 臨床診断では口内炎と診断された者が最も多く、扁平苔癬、掌蹠膿疱症、アトピー性皮膚炎、アレルギー、舌痛症、舌炎で、検査理由は大きく二つのグループに分かれた。一つ目のグループは口腔内に扁平苔癬、舌痛症、口内炎などを発症し、また掌蹠膿疱症など何らかのアレルギー性変化を示し、その原因追求のためにテストをおこなった者で、二つ目のグループは装飾品による接触性皮膚炎や花粉症などのアレルギー変化を起こした既往があり、今回歯科治療を行うための再確認であった。(図5)
 陽性金属の傾向をみると、偶数のイオン価をもった金属に多くの陽性反応がみられ、Pdが20.3%で、次いでNiが17.1%,ZnとCoが9.7%, 6Crが9.2%, AuとPtが6.9%および6.0%で,Hg ,Snが5.1%,Irが4.6%,Feが4.1%でその他は4.0%以内であった。(図6)
 反応を見るうえの注意事項として金属試薬のなかには、AuやPdなどのように金属自体の色が判定を惑わす可能性がある。今回、最も多くの金属に反応を示した患者は11種類で、9種類および7種類に反応を示した患者がそれぞれ一人ずつ(図7)、その他は1〜3種類に反応を示す患者が多かった(図8.9)。これは金属の種類は異なっても抗原物質となると類似構造をとり、交叉反応を起こす可能性があることを示唆するもので、金属の同定には注意を要する。しかし、様々な既往や診断にも関わらずまったく陽性を示さない患者も多く、その理由として心因性などが原因と考えられる。

図7.金属に多く反応を示した患者 図8.塩化パラジューム(Pd)とニッケル(Ni)に陽性を示した患者 図9. 塩化パラジューム(Pd)と塩化コバルト(Co)、ニッケル(Ni)に陽性を示した患者

【金属アレルギーと歯科治療】
金属アレルギー検査(パッチテスト)によって陽性金属が確認できた場合は、口腔内の金属修復物の組成をあらかじめ分析し、その抗原物質となる金属を含む修復物を速やかに取り除く必要がある。その後、症状の経過を観察し、アレルギーを起こさない金属により再治療を行う。(図10)
図9. 塩化パラジューム(Pd)と塩化コバルト(Co)、
ニッケル(Ni)に陽性を示した患者
【おわりに】
 今回、歯科領域を中心に解説したが、金属は歯科領域のみならず、整形外科ではチタンが主に診療に使用され、また装飾品や化粧品、染料や様々な生活用品に関わっている。我々にとってアレルゲンとなる金属物質が生きる為の必需品である。今後、金属アレルギー検査は必須となる事が示唆される。また花粉症や食物、薬剤アレルギーの経験者は金属アレルギーの陽性率が高く、歯科用の金属にも感作されやすいことが報告されている。このように?型と?型のアレルギーの関連性が指摘されているなか、多くの施設では皮膚科領域で直接行われているが、ぜひ検査室で行う必要がある。
【参考文献】
1)井上昌幸,中山秀夫編集:歯科と金属アレルギー.デンタルダイヤモンド社,東京1993
2)安藤智博,他:歯科用金属アレルギー.歯界展望88(4):907−914,1996
3)中山秀夫:金属アレルギー.アレルギーの領域4(12):7−42,1997
4)山中すみへ,他:歯科用金属によるアレルギーのスクリーニング法としてのバッチテスト.口腔衛生学会雑誌47:27−35,1997
5)井上孝,才藤純一,他:インプラントと金属アレルギーの考察.日本歯科評論689:101−110,2000
6)井上孝,才藤純一:歯科の臨床検査メニュー,デンタルフロンティア:29−52,1999

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研   究
検査技師が携わる体外受精
−エンブリオロジストとして   
     不妊コーディネーターとして−
 松戸市立病院 臨床検査科
橋本 和美
1) 田巻 勇次2) 駒木 吉伸1) 中山 幸子1) 白熊 昭司1)
1)臨床検査科 2)産婦人科

 当院が体外受精療法を開始するにあたり、その準備段階からメンバーの一員として参加した。臨床応用までに2年間の準備期間がありその間に研究会の開催、関係施設での研修、実施マニュアルの作成などに加わった。実施にあたっては臨床検査技師としての特性を生かし、受精卵の培養を行うエンブリオロジストとして体外受精療法に参加した。
 エンブリオロジストとしての業務は、採卵、精子調整、受精卵の培養から移植までを取り扱う一連の操作及び準備、培養室の維持管理などである。これらの仕事は体外受精療法の主要な部分だが、採卵を行う前には卵巣刺激ホルモンの注射(7日から10日間の連日投与)による卵胞刺激を必要とする。受精卵の移植後は、着床を促すため黄体期管理が2週間に渡って行われる。従って卵巣刺激開始から体外受精施行、そして結果が判明するまで約1ヶ月を要する。
 その間は患者さんとの接点が多く、精神的サポートも必要であり、体外受精全体を把握することも大切であることから、コーディネーターの必要性を痛感した。そのため最近では体外受精の説明、体外受精療法中のケア−及び治療後の精神的サポートなど不妊コーディネーターとしての仕事も行っている。
 今回は、不妊外来で行う検査を含め体外受精療法に至るまで、そして検査技師が行うエンブリオロジスト及び不妊コーディネーターの仕事内容について述べる。
【不妊外来で行う検査】
 外来初診時には不妊の一般検査である6項目について検査を行い(図1)それぞれの不妊因子の治療を行う。(図2)
図1 図2
 一般不妊検査
1. 基礎体温表
2. 子宮卵管造影
3. ホルモン検査
4. 超音波検査
5. ヒューナーテスト
6. 精液検査
不妊因子別の治療
・子宮因子:子宮筋腫核出術、内膜ポリープ摘出術、子宮形成術
・卵巣因子:排卵誘発剤、ホルモン注射
・頚管因子:ホルモン療法、人工授精
・子宮内膜症:ホルモン療法、エタノール固定、腹腔鏡下手術
・卵管因子:子宮卵管造影法、卵管形成術
・機能性不妊:薬物及びホルモン療法、人工授精
・男性因子:薬物療法、人工授精
 更に、普通の治療では妊娠が望めない症例(卵管閉塞、乏精子症など)や、いろいろな治療を行っても妊娠しない機能性不妊の症例に対して、
  生殖介助術 1.体外受精胚移植法(IVF-ET)
        2.配偶子卵管内移植法(GIFT)
        3.顕微授精法(ICSI)
        4.凍結受精卵移植法  がある。
【体外受精療法の種類及び方法】
1:体外受精胚移植(以下IVF-ET)
  成熟卵を得るため外来において卵巣刺激(Long法:前周期高温期中期あるいは後期よりGnRH投与、月経開始3〜7日目よりHMG開始、刺激日数は7〜10日間)を行う。卵の成熟を医師が確認後HCG投与35時間後に経腟超音波下で採卵し、調整した精子を掛け合せる(以下媒精)。翌日受精の確認を行い、採卵から2日後、4分割の良好胚を3個以内子宮内に移植する。採卵、移植それぞれ日帰り入院で行う。成功率は20〜30%
2:配偶子卵管内移植法(以下GIFT)
  卵巣刺激はIVFと同様の方法で行う。全身麻酔下で採卵を行い直ちに調整精子を媒精、30分から1時間後に腹腔鏡を使って卵子と精子を一緒に卵管内に移植する。腹腔鏡下で行うため、3日間の入院を要する。成功率は30〜40%
3:顕微授精法(以下ICSI)
  卵巣刺激から採卵まではIVFと同様の方法で行う。顕微鏡下で精子を卵子内に刺入する。採卵翌日からはIVFと同様。成功率は20〜30%
4:凍結受精卵移植法
  体外受精を施行した際の余剰胚を希望により凍結保存し、別の周期に融解して移植する。
     (当院不妊外来オリエンテーションより)

 不妊コーディネーターは、体外受精希望の患者さんに上記の説明、全体のスケジュール、副作用及び費用などを説明する。
【エンブリオロジストの業務】
 エンブリオロジストの業務としては、冒頭でも記載したように採卵、精子調整、受精卵の培養から移植までを取り扱う一連の操作、培養液や移植の準備及び培養室の環境整備、データー管理などである。

 ここで体外受精(IVF-ET、GIFT、ICSI、受精卵凍結保存)のぞれぞれの仕事内容について説明する。

IVF-ET
 医師が経腟超音波下で採卵を行い、吸引した卵胞液から顕微鏡下で卵子を確認、直ちに卵子をインキュベーター内に入れ、4〜5時間前培養する。精液はMS管によるSwim up法により活動精子を集め、前培養した卵子に媒精する。翌日受精の確認、さらに夕方2分割の判定を行う。採卵から2日後、4分割の良好胚を移植チューブに3個以内入れ、医師が子宮内に移植する。

GIFT
 精液はIVFと同様の調整を行い、採卵した卵子(IVFと同様)に直ちに媒精する。30分から1時間後に卵子と精子を移植チューブに入れ、医師が腹腔鏡下で卵管内に移植する。

ICSI
 採卵された卵子(IVFと同様)は約3時間前培養し、精液はIVFと同様に調整する。ICSIは卵細胞質内に精子を刺入させる方法で、卵子のまわりにある顆粒膜をヒアルロニダーゼで剥がし成熟を見極めてから行う必要がある。そのためICSIを実施する際の温度管理、PH及び顕微鏡のセッティングなどに注意を払わなければならない。採卵翌日の受精確認及び移植はIVFと同様である。

受精卵凍結保存
 体外受精を施行した際の余剰胚は別の周期に移植する。外来で医師が融解時期を決定し、前核期は移植の前日、4分割胚の場合には移植当日に融解する。(更に翌日まで培養し移植する場合がある)そのため凍結、融解試薬の作成、それに伴う操作を行う必要がある。
 この方法は卵巣刺激をせず自然周期またはHRT周期で行う。自然周期の場合には投薬の必要がなく毎周期移植が可能であるが、排卵日の推定が繁雑である。一方HRT周期では薬を投与するため、移植のスケジュールが立てやすく、年齢にかかわらず移植が可能である。しかし胎盤形成時期まで薬を継続する必要がある。

まとめ
エンブリオロジスト業務内容
1)配偶子(精子、卵子)の取り扱い
2)培養環境の整備
3)書類、データーの整理

不妊コーディネーター業務内容
1)一般不妊外来の参加
2)体外受精(スケジュール、成功率、費用、副作用など)の説明
3)移植後及び妊娠後の患者のケアー
(精神的サポート)

 検査技師の特性を生かし体外受精療法医療チームの一員として、採卵から受精卵の培養、移植まで行うエンブリオロジストの業務を担当した。更に一般不妊外来の参加により患者さんと接する機会が多くなったため、多忙である医師に代わり不妊コーディネーターとして体外受精療法の説明を行うようになった。体外受精施行時には卵の状態、移植スケジュールの説明、妊娠判定まで患者さんのケア−及び妊娠不成功例の場合には精神的サポートも行う。
 このことにより外来での注射、OPE室での採卵、退院後のケアーなど総合して患者さんの経過をみることが可能になり検査技師としての仕事の幅が広くなった。
 今後、検査技師が臨床の場に出て何を提供するか、そして患者さんにどのようなことを提供できるかを考え仕事の幅を広げていきたい。

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研   究
症 例
肝放線菌症の1症例
国保君津中央病院  検査科 細菌室
○高橋弘志、秋倉史、岩間暁子、嶋野美和

 転移性肝臓癌の疑いで肝腫瘍切除術を施行した患者の術中迅速組織診から放線菌を疑う菌を検出。さらに放線菌確認のために細菌検査室に肝腫瘍組織部の一部を綿棒で擦過した検体から放線菌を確認し、また同患者横隔膜からも同様菌を検出した。培養検査からはActinomyces israeliiを分離同定した。転移性肝癌から肝放線菌症と診断された1症例について報告する。
Key words:肝放線菌症、Actinomyces israelii、転移性肝癌、術中迅速診断

【1.症 例】
表1:入院時検査所見 図1:腹部CT像 2月12日
図2:腹部CT像 6月18日
1.患者:59歳、男性

2.主訴:転移性肝臓癌の腫瘍切除術施行

3.既往歴:1993年、50歳時、舌癌の切除手術〔千葉大学医学部附属病院にて〕。1998年、当院にて胃癌摘出手術施行、リンパ節転移なし、切除部分の組織学的癌肛門側断端&組織学的癌口側断端も陰性。

4.現病歴:2002年2月12日腹部エコーにて肝臓のS5〜S6にかけて直径68 55mmの腫瘍を確認。(図1)同14日腹部CTにて肝臓のS5に癌の転移(meta)を確認、外側区にもmetastasis suspectを確認にて3月5日に入院。

5.入院時検査所見(表1):肝機能、腫瘍マーカーCEA、腎機能など異常なし。CRPは高い。

6.入院後の経過
 3月5日入院後、Bone Scan実施し、7日にAngiography検査。8日に肝外側区域切除術、肝前区域切除術、残胃全摘出、肝動脈カニュレーションの術式施行し、前区域の腫瘍部diaphragm浸潤を切除し病理に術中迅速組織診を依頼。悪性腫瘍は陰性で放線菌(Actinomycosis)を認めた。細菌室に菌体の確認依頼があり放線菌(Actinomyces疑い)と判明したので、手術室に報告。そのためS2の腫瘍(tumor)を切除し術中迅速組織診でさらに放線菌を確認したので前区域のtumorは切除せず。肝動脈注カニュレーション施行し手術終了。術後肝動脈注カテよりペニシリンG1,000万単位を約2ヶ月半投与後、腹部エコー上の腫瘍縮小が見られたので6月10日よりサワシリン1500mg/日に変更し、同18日の腹部エコー(図2)で腫瘍はさらに縮小しておりサワシリン経口投与の方針で治療継続し、6月23日退院になる。

【2.細菌学的検査】
1.顕微鏡検査:肝臓腫瘍部の綿棒擦過からの直接塗抹標本及び腫瘍部の直接圧迫塗抹標本をそれぞれ作製し、グラム染色(Barthoiomew & Mittwer染色)にてグラム陽性桿菌を検出(図3)。放線菌様の特徴ある硫黄粒を認められた。手術中の病理部門提出の組織診標本からも認められ、放線菌(Actinomyces)の疑いが強い事を報告。さらに抗酸染色(チールネルゼン染色)を実施しNocardiaを否定できた。
2.分離培養:肝臓腫瘍組織からの検体をブルセラHK寒天培地RS(極東製薬)、PV加ブルセラHK寒天培地(極東製薬)にて嫌気培養を実施し、5%羊血液寒天培地(BBL、以後TSA)、チョコレート寒天培地(BBL)、BTB乳糖寒天培地(BBL)、で好気培養を行い、さらに増菌培養として半流動培地のK1Hチオグリコレート培地(BBL)を用いた。培養では24時間後にブルセラHK寒天培地RS(極東製薬)に微小な菌の発育を認めた。他の培地はこの時点で菌の発育は認められなかった。

3.同定検査:分離された嫌気性菌についてアピケンキAPI20A(日本ビオメリュー)とBD BBL CRYSTAL ANR 同定キットを用いActinomyces israeliiと同定結果を得た。

4.薬剤感受性検査:感受性試験はBBLセプターテストMICパネルを使用した。表2に示す通りで、すべての抗生剤に良好な感受性成績を示した。
図3:グラム陽性桿菌(放線菌様の特徴)  1,000 表2

【3.病理組織学的検査】
肝臓腫瘍及び横隔膜浸潤組織の術中迅速組織診は凍結標本を作製し、HE染色(図4)した結果からは組織学的に放線菌(Actinomyces)を示す菌塊が見られる肉芽腫であると報告した。精査するためにHE染色の他に、グロコット染色(図5)、PAS染色を実施した。病理組織学的所見では肝臓の部分切除による65 55 37?の肝臓組織割面では、45 35 55?の肉芽腫を形成し、横隔膜との間とも肉芽腫の形成が認められる。組織学的に肝臓内及び横隔膜下から横隔膜内に組織球、好中球増多、毛細血管などから肉芽腫が形成され、その中に菌塊が散見された放線菌(Actinomyces)の所見である。病理組織学的診断としてはAbdominal actinomycose(liver & diaphragma)。
図4:肝臓腫瘍組織像  (HE染色, 100)
 膿瘍中心部に放線菌塊(Druse)を認める
図5:肝臓腫瘍組織像  (グロコット染色, 400)
 放線菌の菌塊のsulfar granule, Druseを認める
【4. 考 察】
 放線菌症は、グラム陽性の嫌気性菌である放線菌(Actinomyces)による慢性・化膿性あるいは肉芽腫性疾患である。放線菌は現在では細菌のなかに含まれているが、これまで真菌に含まれてきた歴史と、臨床的に真菌感染症に似ることから現在でも真菌感染症のなかで取り扱われることが多い感染症である。1),2) ヒトの感染症のほとんどが、Actinomyces症(放線菌症)で嫌気性菌のActinomyces israeliiによって起こすことが多い。化膿性肉芽腫病変2)で中心病巣内に特有の菌塊を形成し、これが慢性化すると腫瘍を形成し、悪性腫瘍との鑑別が困難となることがある。3) Actinomyces症(放線菌症)は顔や首に最もよく起こり、そしてこの細菌は誰にでも存在するためこの感染症は伝染性ではなく、Actinomycesは、外傷、手術、感染などにより顔の組織に侵入し疾患を起こす。組織内では膿瘍を形成し、赤色ないし紫色の硬い瘤をしばしば顎に作るため、顎放線菌症の名称がある。3),4) 最終的に膿瘍は皮膚の表面に到達し、排膿のある瘻を形成する。4) 放線菌はヒトの口腔内や腸管内の常在菌であることから、内因性感染の型をとることを原則とする。口腔内から顔面へ波及し、誤嚥による肺への侵入、腸管障害部位からの侵入などである肉眼的には化膿巣、瘻孔、瘢痕形成が本症の特徴であり、組織学的には直径0.2〜2mmの菌塊を中心に多核白血球が浸潤し、線維化も伴い、新旧種々の炎症巣が集合していることが多い。5) そして、放線菌症は主に頚部放線菌症、胸部放線菌症、腹部放線菌症に分類され、確定診断は分泌液あるいは組織から放線菌を証明するか、病理組織学的証明でDruseを認めることによる6)
 本症例では、菌体の証明は顕微鏡検査と培養検査で確認できた。今回、培養検査では平板培地としてブルセラHK寒天培地RS(極東製薬)を使用し、増菌培養として半流動培地のK1Hチオグリコレート培地(BBL)を用いた。半流動培地には増菌目的の他に放線菌(Actinomyces)は菌体のactino(放線状の)+myces(菌)からなる造語が示すごとく、細菌とほぼ同じ幅をもつグラム陽性の分枝した菌糸(hyphae)が、菌塊(Druseまたはsulfar granule)の周辺部で環状をなして放射線状に発育している様子が特徴的である。
7) 一般的に培養には半流動brain heart寒天培地がよく用いられるが、深部に灰白色ないし黄褐色の樹枝状あるいは顆粒状に発育する菌体、また幅約0.5μmの真性分岐した菌糸7)も観察できるので、注意深い観察が必要である。
 今回経験したActinomyces israeliiによる肝放線菌感染症は、基礎疾患として舌癌、胃癌の摘出手術の既往歴がある患者で、転移性肝癌の疑いで腫瘍の摘出手術中で発見された症例であり、まれな1症例であると考える。2月の外来診療で実施した腹部エコー並びに腹部CTからも肝臓への腫瘍転移と考えられる所見であり、3月に原疾患を転移性肝癌として腫瘍摘出手術になった。しかし手術中で摘出する予定の腫瘍から悪性腫瘍と違う所見が見られたことから、病理部に迅速組織診の依頼があり放線菌(Actinomyces)症と確認された。確かに入院時検査所見などからは、肝機能検査値、CEA(腫瘍マーカー)値の異常は認められず肝癌と断定できない要素もいくつかはあるが、腫瘍の大きさなどから摘出手術に至ったのである。このことからも悪性腫瘍との鑑別が難しいと思われる。そこで放線菌症感染と確認でき肝動脈注カニュレーション術を行い、PCG抗生剤による治療に変更できたのは病理部門の術中迅速組織診診断と細菌検査室のグラム染色からの推定菌と一致した連携が良かったものと考える。
 肝放線菌症となった原発はどこかと推定すると、かつて放線菌症で最も多い原因とされていた口腔内からの感染であると思われる。衛生(口腔内)状態の改善、栄養状態の好転、有効抗菌薬の出現により激減したといわれており、1975〜78年の統計によると、深在性真菌症に占める割合は0.3%と、まれな感染症となってきている。
8),9) ただし、近年再増加傾向にある9)と考えられており、本症例も50歳時に舌癌の摘出手術がありその後も当院の歯科口腔外科に通院していたことからも可能性は高いと考える。
 放線菌(Actinomyces)の治療にはペニシリンが第1選択薬である。
10) 経静脈的ベンジルペニシリン(PCG)1日100万〜600万単位を約2か月投与し、その後、経口ペニシリン薬を4〜10か月投与する。そのほかセフェム系、テトラサイクリン、エリスロマイシンなどが有効であることが知られている。1),10) 経口テトラサイクリンは形成中の歯を永久に変色することがあるため、通常は永久歯の生え揃っていない小児には処方できない。さらにペニシリン過敏症の症例には、Iincomycinで良好な治療成績が得られる。11) 本症例は成人であり、薬剤感受性成績はPCG、CTX、などすべての抗菌薬に良好な感受性を示した。ペニシリンに対するアレルギーもなく、治療も約2ヶ月半に渡り経静脈的PCG投与の後、経口ペニシリン(サワシリン)を6ヶ月継続した。肝腫瘍(菌塊)の外科的処置の併用をしたことが治療効果を上げている要因でもあると考える。10) 治療過程では熱発などはほとんど無く、血液培養も3回提出されていたが全て陰性であった。また深在性真菌症の指標となるβ―Dグルカン検査が実施されなかったことが残念であり感染発見を遅らせた1つと考えている。
 今回の症例では、手術中の迅速検査依頼であり、病理部門と細菌検査部門の迅速診断確定が手術方針を左右する事例であった。グラム染色標本からの菌種推定が重要なポイントになるので、日頃から迅速な対応を身に着けておく必要性を痛感した。また推定菌種から適正な治療抗生剤などの情報をすぐに提供できる環境作りが細菌検査室に求められていると感じた。

【文献】
1)今野 淳、本宮 雅吉:放線菌症、日臨43:392-394,1985
2)今西 務、渡辺 信介、湊 博史:原発性肝放線菌症の1例、日臨外医会誌56:403-407,1995
3)鮫島 朝之、大井 秀久、唐仁 原寛:回腸部放線菌症の1例、日消病会誌6:1304-1309.1987
4)金川昭啓、中村 功、国広・誠子ほか:Actinomyces israeliiを分離した顎放線菌症の1例.嫌気性菌感染症研究 28:151-156,1999.
5)片村 宏、坂下 武:大網原発腹部放線菌症の1例、日臨外医会誌55:3201-3203,1994
6)新井 正:放線菌、臨床医11:1761-1763,1985
7)山西 弘一、平松 啓一:標準微生物学 8版  医学書院
8)早川正幸:土壌放線菌の選択分離法および分布に関する研究.日本放線菌学会誌,4, 103-112(1990).
9)早川正幸:「バイオサイエンスと放線菌」(分担執筆),医学出版センター,東京(1994)
10)伊藤 章:真菌感染症に対する抗真菌薬の投与方法、消化器外科8:603,1985
11)Mohr.J.A.et al,:Actinomycosis treated with Lincomycin,JAMA212,2260,1970

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研   究
HCV検査の現状
千葉市立海浜病院      
村 澤 利 延

【はじめに】
 C型肝炎はC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus;HCV)の感染によって、肝組織に壊死炎症反応を起こす疾患である。1989年米国カイロン社が発見したフラビウイルス属に分類されるプラス一本鎖RNAウイルスがHCVであるとされ、急性肝炎及び慢性肝炎の原因と成っている事が判明した。C型急性肝炎は劇症肝炎への進展は稀であり、ほとんどは自然に軽快する。しかしながら、約70%の症例ではHCVが体内から排除される事なく慢性的な持続感染となり、20〜30年後にその20〜30%が肝硬変に進展する。わが国の肝疾患の約70%がHCV感染によるものとされており、HCV関連検査の重要性は大きい。
 HCVが発見されてから現在まで、HCV関連マーカーの検査は長足の進歩を遂げた。HCV抗体の測定は主にスクリ−ニングに用いられる。第一世代ではその検出率は不十分であったが、第二世代、第三世代へ移行するに伴い特異性や感度ともにほぼ満足出来る測定系と成っている。HCV遺伝子型とウイルス量はインタ−フェロンによる治療効果の判定と予測に使用されている。これらのHCV関連マーカーの開発と普及により、C型肝炎の診断と治療は大きく進歩した。


【HCVの概要】
 HCVは、エンベロープを持つ約9500塩基からなるプラス一本鎖RNAをゲノムとするウイルスである。その遺伝子上には9030塩基以上からなる翻訳領域(open reading frame;ORF)が存在する。このORFには3010、3011ないし3033個のアミノ酸からなるポリペプチドがコードされている。また、ORFの5′末端と3′末端には蛋白質がコードされていないnoncording regionが存在する。ORFから翻訳された蛋白のうち5′上流側にはウイルス粒子本体を構成するコア蛋白(C)、エンベロープ蛋白(E1、E2)といった構造蛋白質が配置され、その3′下流側にはウイルス粒子には含まれない非構造蛋白質(non-structural region;NS2-NS3-NS4A-NS4B-NS5A-NS5B)が配置されている。
 HCVは、その遺伝子配列の違いにより遺伝子型の分類が可能となり、ShimmondsらによってGenotype分類が提唱され、核酸配列の相同性から6つのグループ(HCVタイプ)と、更にそれぞれを幾つかのHCVサブタイプに細分化した表記方法であり、国際的に統一されつつある。世界的には70種類もの遺伝子型が分類されているが、日本では6種類(1a、1b、2a、2b、3a、3b)が存在すると考えられており、その割合は1bが70%を占め2aが20%、2bが10%であり1aは稀である。Genotype 3の報告はあるが稀である。Genotype 4、5、6の報告は無い。

【HCV抗体検査】
 HCV抗体測定に使用される抗原は、HCV遺伝子の一部の塩基配列に基づいて人工的に蛋白を作製し(酵母あるいは大腸菌でHCV遺伝子を発現させた精製抗原、または合成ペプチド)これを抗原として用いて抗体を検出している。従って、HCV抗体検出試薬ではいかなる抗原を用いるかが最大の問題となってくる。
 NS4領域のリコンビナント抗原(C100−3)を用いた第一世代では非特異反応も多く検出率も70%と低かった。第一世代のNS4にコア、NS3領域の抗原を組み合わせて検出率が上がったものが第二世代であり、コア抗体はHCV−RNAと相関しウイルス血症を判断する補助として、更にNS3抗体は肝炎の活動性と相関してその抗体価が変動する。第二世代のNS4とコア及びNS3に更にNS5を加えたものが第三世代であり、感度は第二世代と同等であるが、カットオフが鮮明となり偽陽性の頻度が減少している。これらの抗体測定に用いられている方法としては酵素免疫測定法(ELISA)、化学発光免疫測定法(CLEIA)、放射免疫測定法(RIA)凝集法(PA・PHA)などがある。更に各抗体の存在をブロット法で検出するRIBA―?があり、確認試験的に利用されている。
 しかしながら、これらのHCV抗体検査でのHCV感染診断には以下の点などで問題点が挙げられる。
 1.患者により各抗原部位に対しての免疫応答が異なり、各抗原部位に対する抗体産生能が一様でない。また、免疫抑制状態に置かれている場合は、感染していても反応しないか抗体量がきわめて少ない。2.既往感染ですでにウイルスが排除されているにもかかわらず抗体陽性が持続している場合。3.急性感染初期におけるウインドウピリオド、など。
 従って、HCV抗体検査だけでのHCV感染診断は100%ではないので、以下のHCV抗原検査等を組み合わせることが必要となる。
【NAT/HCV抗原検査】
 HCV−RNAの測定はHCV抗体産生前のC型急性肝炎の病初期、抗体陰性のC型慢性肝炎の診断、肝機能正常者での既往感染なのかキャリアなのかの鑑別、及びインタ−フェロン(IFN)治療効果の判定に用いられる。
 定性法
  nested PCR(RT-PCR)法 Amplicor法など
  HCV-RNAを逆転写酵素により逆転写反応(reverse transecription)を行い、これと相補的なDNA(complementary DNA:cDNA)を合成し、このDNAを鋳型としてPCRを実施し検出する。これらの方法で陰性であればウイルス血症が存在しない可能性が極めて高い。反面、コンタミネ−ションや偽陽性の可能性も生じるので注意が必要である。
 定量法
  competitive RT-PCR(CRT-PCR)法
  6〜8本の反応チュ−ブにそれぞれコピー数を違えた競合RNAを加えてPCRを実施しなくてはならず、検体量や試薬量が多く煩雑で測定レンジも狭い。
  Amplicore-monitor法(Ampli-M法)
  検体中のHCV-RNAと、既知濃度の内部標準RNAのそれぞれから得られた増幅DNAの量的比からHCV-RAN量を求めるものである。
  分岐DNAプローブ法(b-DNA法)
  PCR法によらない方法でプローブを次々に結合させることでシグナルを増幅して、あらかじめ作成された標準曲線から算出してHCV-RNA量を求めるものである。感度は劣るがIFN治療前の効果の予測や投与の適応及び投与法の設定を行なうには有用である。
  コア蛋白定量法
  コア蛋白はアミノ酸配列が良く保存されている領域であるので、この部分を認識するモノクロ−ナル抗体を用いて、前処理により抽出したコア蛋白とペルオキシダ−ゼ標識抗コア蛋白モノクロ−ナル抗体を用いて蛍光を測定するサンドイッチELISAである。

【まとめ】
 HCV検査の現状について記述した。C型肝炎のスクリ−ニングとしては抗体検査が最初に用いられるべきであり、次いで肝機能検査やHCV-RNAの定性検査が挙げられる。更にHCVgenotypeやHCV-RNA量及びコア蛋白量が測定され、IFN治療の効果判定に寄与している。以上、HCV検査はその目的によって種々の方法を使い分けて診断と治療に役立てられている。

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施設紹介

東邦大学医学部付属佐倉病院

渡邊技師長 臨床検査部
臨床検査部 採血室受付
 東邦大学医学部付属佐倉病院は同大学の第3の付属病院として平成3年9月に佐倉市唯一の総合病院として開設されました。佐倉市は旧石器時代から江戸時代にわたる遺跡が数多く存在し、歴史学、民俗学、考古学の三分野にわたって日本を研究する国立歴史民族博物館もある、歴史の町といえる場所です。またこの地は明治時代の医学界をリードした佐倉順天堂が存在した場所であり、付属病院の候補地として選ばれたのは偶然ではないでしょう。
 病床数は300床、診療科は内科、外科、小児科、整形外科、産婦人科、脳神経外科、メンタルヘルス・クリニック(精神神経科)、皮膚科、泌尿器科、眼科、耳鼻咽喉科、放射線科、麻酔科の13科、併設施設として救急センター、循環器センター、糖尿病・内分泌・代謝センターを所有する総合病院です。
 検査部門は3階に位置し、臨床検査部、輸血部、臨床生理機能検査部、病院病理部の4部門に分かれ、技師長は臨床検査部と臨床生理機能検査部に各一人ずついるというちょっと変わった構成となっていました。
 各部門の構成人数は臨床検査部2人、輸血部3人、臨床生理機能検査部11人、病院病理部4人の計20人でした。臨床検査部が2人とずいぶん少ないと思われるでしょうが、生化学、血液、一般、血清などの検体検査は病院開設当時から三菱化学ビーシーエルのブランチで11人の技師が派遣され当直までやっているそうです。
 検査部門は各科診療科から近く、廊下を挟んで生理と検体部門が向かい合い、全て一つのエリアに集中し、患者さんにとって利用しやすい作りとなっていました。採血室は検査部に併設され、看護婦2人と技師3人で小児科を含めた全診療科の患者さんに対応していました。技師は全員アルバイトで三ヶ月で契約を更新するそうです。検査依頼はマークシートの依頼用紙でだされ、テクノメディカの採血管準備システムにより、尿スピッツを含めたバーコード貼付の採血管が用意されます。驚いたのは尿は患者さん自らがトイレでカップからスピッツに移すことです。尿カップを持ってウロウロされるよりこちらの方が汚染等が無くよいそうです。またトラブル等もほとんどないということでした。採血された検体は遠心後、そのまま分析機にかけられます。分取が必要なものは自動分注機にかけられ、処理されます。各分析機は生化学がAU1000、血算がADVIA120、K2000、凝固はCA1000、尿定性はクリニテックアトラス、その他LPIA等があり、血液像や尿沈渣も含めて臨床検査の担当者はこれら全てを使いこなせるそうです。一日の検体数は1000本強と病床数に比べて多い印象。また三菱化学ビーシーエルも人手不足らしく、海浜病院に定期的に手伝いに行くらしく人員配置に苦労されるようです。細菌検査は塗沫培養のみで同定や感受性は外注するそうです。輸血部は製剤管理まで全てしているそうで、冷蔵庫のなかにクロスマッチが終了したのとしないのなど理路整然と並べられていました。病院病理部(こんな回りくどい名前が付いているのは別に大学の研究室の病理があることによるものだそうです。)は検体検査部門のワンフロアー内にあり、切り出しから細胞診までそこで行うので効率がよいと思われました。臨床生理機能検査部は心電図、呼吸機能、脳波がやはりワンフロアー内にあり人員の有効利用が可能な作りになっていました。超音波検査、筋電図、聴力検査、眼底検査など全て技師が行っているとのことでした。また各部門の技師長さんは皆ベテランでそれぞれ他の病院ならば技師長さんという雰囲気の方ばかりでした。今回お世話になった渡邊技師長は臨床検査部の技師長ということですが、事実上の統括責任者といえる立場でした。この病院の開設時に付属大森病院よりこちらの技師長に就任されたそうで、脂質のスペシャリストとして理学博士の肩書きを持つとてもエネルギッシュな人という印象でした。こんな関係もあり、LPL活性やLPL遺伝子異常解析など一般の病院ではやっていない検査も行っており、日常検査で脂質関係で疑問があったら一度渡邊技師長に相談されたらどうでしょう。臨床検査部の病院所属の技師は技師長含めて二人だけ、自動分析等は普段はやらないそうですが、面倒な用手法検査や採血時の苦情などあらゆる事に対応しているのでとても忙しい印象でした。事実、案内していただいているときもひっきりなしにポケベルが鳴っていました。ここの検査科の特徴は渡邊技師長の努力の賜物でしょうが、臨床との風通しがよいということだと思いました。業務のモットーは各々の役割を正確、迅速、前向きに遂行し、さらに科学性の徹底追及を行い「患者さん」のために努力することだそうです。数年後には病院拡張とともに検査科も拡張する計画でそうで、益々の発展をお祈りいたします。

輸  血  部 自動分注器
尿 検 査 室 PCR検査等の研究室

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