婦人科 解答解説
解答:子宮頸部原発のカルチノイド
解説
 子宮頸部原発のカルチノイド腫瘍は,1972年Albores-saavedraら1)が最初に報告したまれな疾患である.頸癌取扱い規約2)では巣状・リボン状あるいは腺管様構造など多彩な所見を呈する腫瘍と定義され,比較的均一な細胞よりなり,核は小型で異型性に乏しいとされる2).鑑別疾患の小細胞癌は.腫瘍細胞がびまん性に増殖し,N/C比が大きく,核異型も強く,クロマチンに富みカルチノイド腫瘍と鑑別される2).細胞診に関する報告例は,Hirahatake ら3)や本邦では野田ら4)にすぎない.また,多形性を示す扁平上皮型や腺癌型の腫瘍細胞からなる悪性カルチノイド腫瘍の報告もある4).予後は極めて不良とされるが4),本症例は術後3年が経過し再発は認めない.
(摘出子宮の肉眼所見)子宮膣部を外方に膨隆する大きさ20×10×10mmのポリープ状腫瘍
(組織所見)
 組織学的には,N/C比の高い小型腫瘍細胞が充実性に増殖しロゼット構造,腺管様構造,リボン状配列を特徴とした.核は小型円形で比較的均一,核小体は不明瞭であった.間質成分は乏しく,わずかに充実性胞巣を区画しているだけであった.組織学的に多彩な形態を示すこと,腫瘍細胞は小型均一で多形性に乏しいことから小細胞癌や小細胞性未分化癌と鑑別された.本疾患の確定には神経内分泌の証明が不可欠である.グリメリウス染色,フォンタナ・マッソン染色は陰性であったが,免疫組織化学的にシナプトフィジン,クロモグラニンA,NSE-γ陽性,電子顕微鏡的に細胞質内には神経内分泌顆粒を認めた.以上よりカルチノイド腫瘍と確定した.また,ホルモン産生の報告例があるが3),ソマトスタチン,セクレトニン,ガストリン,ACTH,カルシトニン,グルカゴン,インシュリンは陰性であった
(細胞所見)

 細胞学的には,軽度の炎症所見を呈し壊死物質はみられなかった.出現パターンはロゼット状や腺管様構造,一部索状配列で,重積性を示す乳頭状集塊や柵状配列,密なシート状細胞集塊はみられなかった.N/C比は高く,核は小型円形で比較的均一,多形性に乏しかった.クロマチンは粗顆粒状に分布し濃染傾向に欠き,核小体は不明瞭,細胞質はライトグリーン好染性で胞体内粘液はみられなかった.
 これまでに報告されたカルチノイド腫瘍の細胞学的形態は,標本背景は壊死性,散在性や一部ロゼット様配列,核は円形や卵円形,核小体は明瞭,粗顆粒状のクロマチンで小細胞癌を疑う腫瘍細胞の出現からカルチノイド腫瘍の可能性を疑うとある3),4).
 細胞学的鑑別疾患として小細胞癌,小細胞性未分化癌,上皮内腺癌が挙げられる3),4).小細胞癌は細胞学的に著しい壊死性背景,核のmolding,核の大小不同,核の濃染傾向を示すとされる6).カルチノイド腫瘍は小型均一の腫瘍細胞のロゼット様構造,腺管様構造を主体とし,核の濃染傾向を欠くことより鑑別可能である.また,腺管様構造を示すことより上皮内腺癌が鑑別疾患に挙げられる.上皮内腺癌は細胞学的に高分化型や低分化型の形態を示し内頸部型,腸型,類内膜型がある7).内頸部型と腸型は高円柱状で胞体内粘液を有すること,類内膜型では結合性の強い密なシート状細胞集塊が特徴とされ7),細胞学的に上皮内腺癌とは鑑別可能であると考えられる.
(参考文献)
1)Albores-Saavedra, J., Poucell, S., Rodriguez-Martines, H. A. Primary carcinoid of the uterine cervix. Pathologia 1972:10:185〜193.
2)日本産婦人科学会,日本病理学会,日本医学放射線学会編.子宮頸癌取扱い規約(改訂第2版).東京;金原出版;1997.
3)Hirahatake, K., Hareyama, H., Kure R., Kawaguchi, I., Yamaguchi, J., Sakuragi, N. Cytologic and hormonal findings in a carcinoid tumor of the uterine cervix. Acta Cytol. 1990 ; 34 : 119〜1224.
4)野田雅也,伊東英樹,山下智子,芥川典之,黒木勝円,工藤隆一.子宮頸部カルチノイド腫瘍の1症例.日臨細胞誌 1998 ; 37 : 469〜474
5)Miles, P. A., Herrera, G. A., Mena, H., Trujillo, I. Cytologic findings in primary malignant carcinoid tumor of the cervix. Including immunohistochemistry and electron microscopy performed on cervical smears. Acta Cytol. 1985 ; 29(6) : 1003〜1008.
6)Zhou, C., Hayes, M. M., Clement, P. B., Thomson. Small cell carcinoma of the uterine cervix: cytologic findings in 13 cases. Cancer. 1998 ; 84 : 281〜288.
7)Ayer, B., Pacey, F., Greenberg, M., Bousfield, L. The cytologic diagnosis of adenocarcinoma in situ of the cervix uteri and related lesions. Acta Cytol 1987:31;397-411.


(症例提示 :慈恵医大柏病院 梅沢 敬)
肉眼像
クロモグラニンA
電顕像

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