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症例2 呼吸器解答

解答 胸腺癌 [WHO分類 Thymic carcinoma (type C thymoma)]



HE染色
対物 4倍


HE染色
対物 60倍


HE染色
対物 60倍

解説

胸腺癌は組織学的にも明らかに癌と診断される胸腺原発の悪性腫瘍である。したがって組織学的に生物学的な振舞いを予想し難いいわゆる“浸潤性”あるいは“悪性”胸腺腫とは別に分類されている。これまで胸腺癌を含めた胸腺腫の亜分類についてはRosai & Levineらの分類、下里らの分類、Muller-Hermelinkらの分類、正岡の分類等様々な提唱があり、混沌としていた。その中で約10年の歳月が費やされ1999年にようやく胸腺腫瘍のWHO分類が出版された。
本症例はThymic carcinoma (Type C thymoma)と診断され、subtypeとしてはEpidermoid keratinizing (squamous cell) carcinomaであった。また組織学的に腫瘍は肺、心嚢への浸潤が認められたため、正岡の分類ではV期と診断された。

組織所見
腫瘍は胸腺内部で厚い線維性間質を伴い充実性の胞巣を形成し、合併切除した肺へ圧排性、浸潤性に増殖していた。個々の細胞の胞体は比較的豊富で淡く好酸性に染まり、相互封入像が数多く見られ一部では角化も認められた。核は類円形から不整形を呈しクロマチン顆粒は粗造で核分裂像も3/10HPF認められ異型が強かった。またリンパ球の混在は殆ど見られなかった。組織学的には角化型扁平上皮癌であるが分化の低い部分もかなりを占めていた。

細胞所見
壊死の見られないきれいな背景に、線維性間質を伴ったやや重積性のある上皮性細胞集塊を認めた。集塊辺縁の細胞には結合性の低下が見られ、また周囲には数個の細胞からなる小型の上皮性細胞集塊が見られた。集塊の一部には相互封入像と思われる構造も見られた。集塊上や周囲にはリンパ球は殆ど認められなかった。個々の細胞はライトグリーンに染まる胞体を有し、部分的にはやや厚みのあるものや核中心性の細胞も見られたが、明らかな角化細胞は認めなかった。核は類円形から不整形を呈しクロマチン顆粒は粗造で一部では濃縮状を呈し、また明瞭な核小体や核分裂像も認められた。以上採取部位、細胞像より胸腺癌と診断した。

鑑別診断
縦隔は消化器、呼吸器、神経、リンパ節、胸腺、その他の軟部組織など多種類の組織から成るので、対象疾患も多種多様である。しかし部位別に好発する腫瘍が異なっているので腫瘍の占拠部位はこの領域においては診断上非常に重要である。以下に部位別に見た主な好発腫瘍を示す。

上縦隔:甲状腺由来の腫瘍
前縦隔:胸腺腫瘍、胚細胞性腫瘍(奇形腫、セミノーマ等)、悪性リンパ腫
中縦隔:嚢腫、悪性リンパ腫
後縦隔:神経原性腫瘍

本症例は前縦隔腫瘍であるが、リンパ球成分が殆ど出現していない事より先ず悪性リンパ腫は否定的である。そこで胸腺腫瘍を念頭に考えるが、実際には胸腺腫との鑑別が問題である。胸腺腫の細胞像は一般的には上皮性細胞とリンパ球が様々の割合で見られるが、リンパ球が殆ど見られない場合や、逆に上皮性細胞が殆ど見られない場合にも遭遇する。本症例はほぼ上皮性細胞のみから成り、弱拡大像からは上皮性型胸腺腫も疑われる。しかし強拡大像では細胞所見に記載した如く個々の細胞の異型は非常に強く、悪性とするには十分である。よって胸腺癌の診断に至るが、組織型は流れ様配列を示す集塊、相互封入像、核中心性で厚みのある胞体の存在によって扁平上皮癌である事が推測される。実際胸腺癌の組織型では扁平上皮癌が圧倒的に多く、腺癌の報告に至っては極めて少ない。また多臓器からの転移で最も鑑別を要するのが肺の扁平上皮癌であるが、@壊死が見られない、A臨床的にも肺領域に明らかな異常は認められず、むしろ心膜への浸潤が疑われる事より否定的である。また胸腺癌に比較的よく伴うとされる線維性間質成分も見られた。以上より本症例は胸腺癌の診断が可能である。

参考文献

1. 下里幸雄 : 縦隔. 外科病理学, 3(石川栄世, 遠城寺宗知編), 文光堂, 東京, 1999, 295-324

2. 向井清 : 胸腺上皮腫瘍の分類:新WHO分類の作製経過. 病理と臨床, Vol.20, No.6, 2002 ,577-581

3. Rosai, J. : Histological Typing of Tumors of the Thymus. World Health Organization International Histological Classification of Tumors, 2nded., Springer, Berlin, 1999

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