精密さの評価は以下の2点によって評価される。
(同時再現性が確認された上で)

  1. 管理試料の反復測定値を用い日間変動と日内変動を評価
  2. 多数の患者試料の二重測定値(ランダマイズ2回測定)  

 精密さの許容誤差限界は、生理的個体内変動の標準偏差(standard deviation ,SD)の1/2 またはそれに対応する変動係数(coefficient of variation,CV)の値とされている。

精密さが許容範囲外の場合は、その原因について改善策を講じ、先へ進まない


(1)日間変動と日内変動の評価

1) 測定試料の準備:
安定な管理試料を用い,基準範囲内のものおよび異常値検体について3種類程度用意する.このときマトリックスについても考慮する.

 

[例題の解釈]

例題は、Ca 試薬検討データを示した。

「P−値 より 有意水準0.05以下から日内精密度と日間精密度の差がある!」と判断され、グラフ上においても数日間は安定したデータを示すが、その後急速に試薬の劣化を示している。試薬を新しいものに交換することで元に戻っている。(このデータは、キャリブレーションを実施しないで30日間データを追ったものである。)

総合精密度が0.25mg/dlであるのに対し、「健康者の固体内生理的変動幅;SDw/2」は0.13mg/dlである事から、今回検討した Ca 試薬は許容範囲外となるため、満足な精密度は得られないと判断される。しかし、試薬交換後の数日間は安定していることから、この間のみについて再検討したところ、良好な精密度が得られたため、4〜5日の試薬交換サイクルであれば問題なく使用できる。また、Ca の測定を行う場合、一般的には毎日キャリブレーションを行うと思われるので、この様な日差変動は現れないと考えられる。

日間変動と日内変動の評価では、3濃度以上について評価を行うため、他2濃度についても同様に検討するが、この時「新規シートへの書き出し」ボタンを押して、今回のデータを保存しておく。

ちょっと考えて:

日臨技の指針では分散分析法を用いて精密度を評価する方法を取っている。分散分析法は分散が正規分布することを仮定した分析方法であることから、今回の例のように、正規分布を示さない例では、分散分析の結果を鵜呑みにすることは危険である(下図)。

前回の資料の「統計解析について」で示したが、分布型を考慮しない統計判断では思わぬ間違いが潜んでいる。今回の例では試薬の劣化によるデータの変動が生じたわけであるが、長期安定な試料や試薬が提供されない項目であれば、この様な現象が生じることも十分考えられるので注意したい。

さらに、日内変動が非常に小さい場合、日差変動との間に精密性の差が生じることがある。この様な場合、臨床的に問題となるかどうかを考慮して判断する必要がある。指針では、生理的個体内変動の半分の値(SDw/2)を用いて判断するように示されている。

 


(2)患者試料の二重測定値(ランダマイズ2回測定)

1) 測定試料の準備:
50例程度の患者試料を準備する.この際、NCCLSの望ましい患者試料の濃度分布を参考に試料を集める。

2) 試料の測定
集めた患者試料に順番をつけ、1回目の測定を実施する.つづいて2回目の測定は、順番をランダムにするか、あるいはまったく逆の順番にして同日内に測定する。

3) 結果を「ランダマイズ2回測定シート」に入力 

4) 結果の解釈
 @差のプロットが測定値の平均値iの大きさにかかわらずほぼ一様であることを確認する.
 A差が測定値によって一様でない場合(値の上昇に伴い増大するなど)は,ほぼ一様と考えられる濃度群(例えば低濃度,中濃度,高濃度群の別)に分けて,それぞれの濃度群について評価する.
 B極端に大きな差がある測定値は外れ値でないかを検討する.
 (外れ値の検出は,差の絶対値の平均値の4倍以上ある場合をいい,その原因を検討し外れ値のときは除外する.)
 C標準偏差(SDE)と健康人の固体内生理的変動の1/2(SDw/2)と比較する.
 なお,本ソフトではデータセット数は最大100まで

望ましい患者試料の濃度分布 (NCCLS指針より要約)

患者試料濃度域

基準範囲が低濃度域の場合

基準範囲が中濃度域の場合

基準範囲の下限値以下

基準範囲の下限値から平均値

15〜30%

10〜30%

20〜25%

基準範囲の平均値から上限値

20〜30%

20〜25%

基準範囲の上限値から上限値の2倍

基準範囲の上限値の2倍から4倍

基準範囲の上限値の4倍以上

20〜40%

10〜20%

約10%

 

20〜40%