第37回関東甲信地区医学検査学会特別企画(シンポジウム) 2000.10.14-15

医療改革と医学検査

 日本臨床衛生検査技師会  小ア繁昭

 医療を取り巻く環境は、極めて厳しい環境下にある。昭和36年(1961)に国民皆保険制度ができて以来40年近くが経過した。この間日本経済は、大型景気により平均9.2%と極めて高い成長率で経済発展を遂げ、国民は質の高い良質な医療を享受できた。その後バブル経済の崩壊による経済不況から医療費の伸びと、経済成長のアンバランスが拡大している。国民所得が1%台で推移する一方国民医療費は、平成4年から平成8年まで年平均5%程度の伸び率で金額にして約1兆円程度の増加を続けている。なかでも老人医療費は、急速な高齢化の進行に伴い、毎年9%前後の伸びを示しており、国民医療費の3分の1を占めている。平成10年度は29.2兆円と対前年度0.2%の伸びとなっているが、1999年の健康保険法の改正で患者負担の引き上げによる影響で伸び率が一時的に落ちたもので平成11年度(1999)には30,1兆円と、始めて30兆円を超えるものと見込まれている。

日本の医療費は、欧米先進国のGDPに占める医療費の割合から比べると7%程度でけっして高いと言えないが、いま医療や医療費がこれまでに多くの注目を集めるのは、日本の人口構造の変化に起因する部分が大きい。これまで西欧先進諸国でもかつて経験の無い超高齢化と少子化が同時に進んでいる点である。増え続ける人口も将来集計では2007年のピーク1億2,778万人から減少するといわれている。又、総人口に占める65歳以上の高齢化率も1970年の7.1%から1994年には14,1%と2倍に増え、1997年6月には世界で初めて老年化指数が100.3の世界一の老人国になった。

近い将来到来するであろう少子高齢化社会においてもこれまでのように、国民が安心して良質で効率的な医療を享受し、世界に還たるこの医療保険制度を堅持するため極力、医療サービスの効率化を図り、無駄を省き、国民医療費の伸びを適正にする方策を求められるのは当然な流れである。

21世紀の医療保険制度について医療制度改革協議会で診療報酬体系の適正化、医療供給体制の明確化、薬価基準制度、医療保険制度等の検討を開始している。医療機関の機能分担と連携の推進では、医療供給体制の効率化のため200床を基準として位置付け、再診は病病、病診連携が明確にされた。又、出来高払いと包括払いの最善の組み合わせによる包括範囲の拡大はDRG/PPS導入への準備であり、医療に係る情報提供の推進は、インフォームドコンセントの充実から患者の知る権利を認めたものである。今後予想されるカルテ開示は、医療従事者と患者との信頼の確保のうえに必要であり、検査においては精度の高い検査データが求められる他、職員個人の付加価値生産性が厳しく問われこれまで以上の民間経営マインドの導入が避けられなくなるであろう。今注目のEBM (EvidenceBasedMedicine)に基づく治療ガイドラインの作成やクリニカルパスの導入は、これまで医療の現場で論じることの少なかった患者のための医療として大いに関心を傾けなければならない。規制に守られてきた医療も21世紀はGlobal StandardのもとにClient Orientedに対応できる検査室が求められる。