第37回関東甲信地区医学検査学会特別企画(シンポジウム) 2000.10.14-15

千葉県の検査値統一化事業の経緯と具体的データを示した経過報告

社会保険船橋中央病院 検査部 市原 文雄

【はじめに】
 千葉県臨床検査技師会臨床化学検査研究班では、本年度より検査室において日常的に測定されている21項目を対象に検査値統一化をスタートさせたので、その活動について報告する。

【経緯説明】
 事の発端は、昨年7月に今シンポジウムの演者でもある産業医科大学の池田勝義先生をお招きし、福岡県の検査値統一化の現状をご講演いただいたことに始まる。聴衆の中に居られた千葉リハビリテーションセンターの秋庭技師長が、福岡県方式を県立病院のグループで開始し、さらに県内の主要な施設にも呼びかけたところ多くの賛同が得られ、臨床化学検査研究班と県立・大学・国立・国保などの各グループから代表者を選出し委員会が組織され、本事業がスタートした。委員会により統一化マニュアルを作成し、県内全施設および賛助メーカーに配布し参加を呼びかけたところ、約60施設の申し込みが寄せられた。

【統一化の方法】
 我々の統一化の主眼は以下の四点である。
1.統一化のための標準的測定法および暫定基準範囲を設定する。
2.統一化管理試料として、小規模な施設でも実施可能な凍結管理試料(チリトロール2000)
をメーカー委託製造によって一濃度を作成し、基幹病院が標準的測定法により目標値と許
容範囲を設定する。
3.参加施設は本試料を購入し、できる限り毎日ルーチンに投入して内部・外部精度管理に活
用して精密度および正確度の継続監視に努める。
4.本事業を臨床化学部門に止めず、今後さらに血液や免疫部門にも拡大する。

【チリトロール2000の性能について】
本試料は人血清をベースにリコンビナント酵素・CRPを添加して、日水製薬に委託製造をお願いした。一濃度とした理由は、メーカー市場への配慮と参加施設の経済的および作業上の負担を考慮したためである。本年4月より参加施設が本格的に本試料を測定しているが、溶解方法を細部にわたりマニュアル化しないと、ALT・ALP・CKに日間誤差が生ずることや、設定した目標値からの緩やかな測定値低下傾向が確認されている。また、一部のドライケミストリー機器での報告ではあるが、人血清や液状試薬での測定値との挙動が一致しているとの確認が得られている。現在、日臨技や日本医師会といった大規模外部精度管理調査における臨床化学部門の調査配布試料には、成分項目と酵素項目の二種類の凍結乾燥試料が配布されている。できれば、凍結人血清試料でさらには一種類で全ての項目や測定法に使えることが理想と考えられるが、現状では費用や輸送など様々な問題があり困難であろう。したがって、我々は今回作成したチリトロール2000の性能を把握してより良い凍結乾燥試料として成長させ、他県や団体にも御評価をお願いしながら、外部精度管理調査に生かしていける試料にしていきたいと考えている。

【今後の事業展開について】
昨今、DRG/PPS(疾患別関連群包括支払い方式)や国民総背番号制採用、健康保険証のカード化などの背景から、さらなる病院の効率的運営と検査データの一元化や施設間連携など地域におけるデータの共有化が急務となっている。今後は、さらに県技師会主催の精度管理調査参加と検査値統一化を県内全施設に浸透させ、県医師会にも本事業への協力を呼びかけ臨床側に理解を求め、検査値統一化全国展開のモデルとすべく、本活動を発展継続していく考えである。