第37回関東甲信地区医学検査学会特別企画(シンポジウム) 2000.10.14-15

    施設と地域が連携した精度保証の実際
          −福岡県における検査値統一化の実践−

福臨技臨床化学研究班・福岡県5病院会
池田 勝義 (産業医科大学病院 中検)

1.はじめに
 臨床検査における標準化の方法論は、現在までに全国各地で様々な検討が試行されており、結果的に、精密度の評価法・勧告法を基準とした正確度の評価法・CRMの作製と認証作業などが確立してきている。これらの方法論を日常検査に適応して、測定値の信頼性を確認すれば、ある程度の標準化はすでに達成できる状況になっている。しかし、臨床検査値標準化の実践のためには、検査室どうしの活動に加えて臨床への対応や業者のバックアップが不可欠であり、地域医療としてト−タル的な観点から対応していかなければならない。福岡県では、県医師会・県技師会・臨床化学会(5病院会)が緊密な連携を持ち、県下の医療施設に対して臨床検査値標準化のための支援体制をととのえている。また、医療施設に毎日出入りする業者や問屋の方々の支援も効果のひとつとなっており、産学官の共同作業として認識されつつあると思われる。

2.福岡県における標準化の実践の概要
1)検査値標準化の基本的手法
検査値標準化の基本は、各施設において精密度と正確度を評価する定石の方法に従っている。但し、日臨技指針の方法では小規模施設において経済的な理由で実施しづらい面があるので、現実的な日常ル−チンの中で極力実施できるよう配慮している。すなわち、精密度は月例サ−ベイの繰り返しデ−タから推測し、施設内精密度の指標としている。また、正確度はサ−ベイ試料につけた目標値を基準に評価している。
2)現状におけるデ−タ標準化の具体的運用
@正確さの指標
 JSCC勧告法(常用基準法)の出ている検査項目は、これを正確さの指標とする。但し、LDはJSCCとSSCCの2本立てとしている。AMYは3-KB-G5-CNP基質法を、CHEはDMBT基質法を暫定基準としている。それ以外の検査項目でNISTあるいはIRMMのCRMが存在するものは、この標準品を正確さの指標としている。
Aサ−ベイ試料への目標値設定
 サ−ベイ試料への目標値設定は5病院会を中心とした基幹施設で実施している。日臨技の精密度・正確度の評価法に沿った方法で確認された自動分析法でサ−ベイ試料を測定し、同時に測定したCRMの表示値と比較検定して目標値を設定している。
B各施設の測定値の評価
 各施設のサ−ベイ測定値から、施設内精密度と目標値からの隔たりを算出し、各施設のデ−タの信頼性向上のための情報としている。各検査項目ごとに許容範囲を設定し、これを越える施設へは対策を促す。
C基準範囲
 福岡県が統一しょうとしている測定値系で、NCCLSの方法に準じて基準範囲を作成した。5病院会が中心になって作成作業を行い、県内統一基準範囲として使用されるよう啓蒙している。
D各施設への支援
 各施設への支援は毎月定例の技師会研究班活動(県内4支部に分かれている)を中心に行っている。月例サ−ベイのデ−タ解説を中心に、自動分析・試薬の基本事項や標準化に対する概念、内部QCの実践方法、基準範囲の求め方、JSCCの動向などの標準化に関わる情報伝達にとどまらず、各施設への個別支援も行っている。
E臨床への対応
 臨床への標準化の啓蒙は、地域医療計画の一環として県医師会から行っている。県医師会報への掲載など、臨床医の目にとまりやすい媒体を用いて、その意義・方法などを紹介し理解を深めていただく。また、医師会の精度管理担当理事から積極的に啓蒙していただく。このような雑誌などに文書化されたものがあれば、各施設でも個別対応しやすい。

3.今後の課題
@標準化後のモニタリング体制をさらに日常ル−チンとどう直結させるか。A現在のデ−タのやりとり(FDD・E−mail)をさらに発展させる。Bインタ−ネットを使った地域精度管理システムへの発展。C個別支援体制のさらなる充実

4.おわりに
福岡県では、標準化のための体制は完全に出来上がりつつある。標準化を進めるためには、やや質の異なったいくつかの作業を有機的に調整しながら、連携をとって進めて行くことが大切であると実感している。21世紀を迎えるにあたり、この作業が早期に完了し、次のステップへ進めるよう努力したいと考えている。

5.文献
1)池田勝義:施設と地域が連携した精度保証の実際−福岡県における実践−.KAMERADEN,30:23〜30,2000.