第22回千葉県臨床衛生検査学会抄録(平成13年2月11日開催)



抗酸菌検査における各種検出法の感度とその意義

○里村秀行 山口恵美子 福永昌子 斎藤郁子
仲沢正美 佐藤洋子
  (千葉県がんセンター 臨床検査部)

[目的]近年、抗酸菌の検査法は、感度の向上と共に迅速性が求められており、当センターにおいても液体培地や遺伝子検査を導入し迅速化を図ってきた。今回我々はPCR法導入に伴い臨床検体からの抗酸菌検出法について比較検討した。
[方法]1999年に提出された臨床検体1029件全例について、塗沫検査(蛍光染色およびチール・ネルゼン染色、以下塗沫)、液体培地(MGIT:BBL)および工藤PD培地(日本ビーシージー、以下工藤)による培養検査、PCR法(コバスアンプリコア:日本ロシュ、以下PCR)による遺伝子検査を行った。
[結果] 抗酸菌検査全体の陽性率は5.2%で、PCR陽性・培養陰性は陽性例の9.3%であった。PCR陰性・培養陽性は陽性例の51.0%であり、PCRで検出不能の非定型抗酸菌が72.0%(18例)を占めていた。このうち臨床的に意義のあると思われる症例は2症例みられた。検出法別の感度は、いずれかの方法において陽性となった例数の合計を100%として、MGIT;74.3%、PCR;62.6%、工藤;49.5%、塗沫;29.5%であった。塗沫陽性例でのPCRは100%と極めて高い感度を示した。塗沫陰性例では、PCR;61.0%と陽性例に比べ感度の低下がみられた。以上のことから、塗沫陽性例ではPCRを実施する事によって、迅速な診断が可能と思われた。なお、現在も検討を継続中であり、その成績もあわせて考察を発表する。
          043-264-5431(内線3733)
Vero毒素検出を主体にした糞便検査体制の重要性
−検索・同定に難渋した腸管出血性大腸菌(STEC)による感染性腸炎の2例−

○ 澤田恭子 大楠清文 高橋亮
(千葉県こども病院検査科)

【はじめに】 STECによる下痢症は, 小児では, 激しい血便のあとに溶血性尿毒症症候群を続発する傾向があり, 感染初期段階での確定診断が極めて重要である. 今回, 我々は, 培養後のコロニーを用いたVero毒素の検出を端緒に, 極めて稀なSTEC感染症の2例を診断し得たので報告する.
【症例1】5歳, 男児. STEC O62:H- , VT2(+)
 本症例では, 腹痛・血便が認められたが, 前医にて既に抗菌薬の投与を受けており, 分離されたのはわずかにグラム陰性桿菌2 coloniesのみであった. 本菌株は生化学的性状がShigella spp. に非常に近く, 市販の同定キットでは同定不能であったため, 衛生研究所に精査を依頼した. その結果, VT2産生のSTEC, 血清型は市販の免疫血清には含まれていないO62:H- であった.
【症例2】8歳, 男児. STEC O157:H7, VT2(+)
 分離された大腸菌株は当院では血清型別不能であったが, 臨床症状よりSTECを疑い, 直ちにVero毒素の検索を行ったところVT2産生株であった. 衛生研究所にて本菌株は, 抗血清との反応が非常に弱かったもののSTEC O157:H7と同定された. 生化学的性状はソルビトール(+), β-グルクロニダーゼ(+)と双方共に非典型的であったため, 選択培地上のコロニーでは鑑別できなかった. このような典型的性状をとらない菌株は, 一般的に用いられている両性状を指標とした選択スクリーニング培地の所見だけでは見逃されてしまうことから, 臨床症状を十分に考慮した上でVero毒素の検索を行うことが重要である.
【まとめ】 近年STECの血清型はO157だけでなく多様化しており, さらに市販の抗血清では同定できない菌株も増加していることから, 血清型や生化学的性状にとらわれず, Vero毒素の検索を主体とした検査体制がきわめて重要である.
 最後に菌株の同定にご協力頂いた千葉県衛生研究所の内村眞佐子主席研究員に深謝致します.
      連絡先:043-292-2111(内線2264)

制作・著作:社団法人千葉県臨床衛生検査技師会