千臨技会誌 2005 No.3 通巻95

シリーズ シリーズ「細胞レベルの病理学」の終了について 千葉社会保険病院 検査部       岸澤  充 
千葉大学大学院医学研究院腫瘍病理学  梅宮 敏文 
千葉県こども病院  検査部     中山  茂 
研  究 バンコマイシンの薬物治療モニタリングが    有用であった1症例 千葉県循環器病センター 検査部 検査科 細菌検査室
斉藤 佳子  佐藤 正一  仁科  功
資  料 臨床化学検査研究班研修会「よろず相談談話会」開始にあたって 千葉県臨床衛生検査技師会臨床化学検査研究班班長 
千葉大学医学部附属病院 検査部 吉 田 俊 彦 
施設紹介 組合立 国保成東病院  


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シリーズ
シリーズ「細胞レベルの病理学」の終了について
千葉大学大学院医学研究院腫瘍病理学   梅 宮 敏 文  
千葉社会保険病院 検査部   岸 澤   充  
千葉県こども病院 検査部   中 山   茂  

  この度、シリーズ「細胞レベルの病理学」は千臨技会誌通巻94掲載の「30.膜性増殖性糸球体腎炎」をもちまして終了させていただきました。千臨技会員の皆様には、長い間お読みいただき誠にありがとうございました。

 このシリーズ「細胞レベルの病理学」は1995年千臨技会誌通巻64掲載を第1回目としてスタートいたしました。年に3回の掲載でありますが、10年間継続させていただき、本年千臨技会誌通巻94でシリーズは第30回を数えました。
 近年、病理検査の分野での電子顕微鏡の需要は、免疫染色の開発と普及により著しいく減少いたしました。しかし現在でも、腎疾患、ウイルス感染症等の検索には欠くことのできないものであり、電顕によって得られる所見は明解であり、それによって病理診断が確定的になる例は未だ少なくありません。
 私たちは10年間に亘り各種疾患の病理組織像と電子顕微鏡的細胞像を提示し、各種疾患の特徴的な細胞形態の変化や特殊構造物の解説してまいりました。その間、会員の皆様からはご意見やご要望を多々いただき、私たちも一緒に勉強させていただき、良い経験をさせていただきました。
 最後に、シリーズ「細胞レベルの病理学」終了にあたり、千臨技会員の検査技術と検査知識の向上を目指して、他検査分野におけるシリーズの継続を要望して、ご挨拶とさせていただきます。


梅 宮 敏 文

岸 澤   充

中 山   茂

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研  究
住民検診における心電図同期限定カメラによる動脈硬化評価の試み
安房医師会病院
鈴 木 基 郎 ほか

はじめに】
 安房医師会病院は、安房郡市全域の40歳以上の住民を対象として地域住民検診を行っています。
 その地域住民検診の主要な対象疾患は、糖尿病、高血圧症、虚血性心疾患、高脂血症、悪性腫瘍などの生活習慣病であり、悪性腫瘍を除けば、動脈硬化を促進させる、あるいは動脈硬化の進行に伴っておこる病態と考えられます。従って動脈硬化の経年的な状態をモニターし、そのデータを基に適切に対処法を講じる事ができれば、大部分の生活習慣病の発症あるいは合併症併発を防ぐことができると思われます。

 本来動脈硬化性病変の進行は、動脈血管自体の変化度により評価されるべきであり、これまで開発された方法には、脳血管造影、MRA、ならびに頸部エコーによる頚動脈の内膜中膜肥厚度(IMT)や脈波伝達速度(PWV)などがあります。しかしながら、住民検診レベルでは脳血管造影、MRAは行えず、さらに、IMT、PWVも手間と時間がかかるため取り入れる事が出来ないのが現状です。一方、動脈硬化の進行度を脳血管、内頚動脈の第1枝の血管である眼底動脈で判定可能なことは、キース-ワグナー分類、シャイエ分類でも明らかなように既定の事実と考えられます。

 動脈硬化指標としての眼底動脈は人体内で唯一非浸襲的に観察できる血管であり、動静脈交叉現象、血柱反射から細動脈の硬化の程度を見極める事ができます。また、近年アメリカのAtherosclerosis Risk in Community (ARIC) Studyにより、動脈硬化の中間指標として眼底血管の動静脈径(A/V)比が提唱され、その有用性が証明されています。しかし、このA/V比は計測が簡便ではなく、血管拍動(ウィンドケッセル現象)により影響を受けてしまう問題点がありました。
 今回、私たちは心電図に同期した撮影のできる眼底カメラの試作機を使用する機会を得ましたので、地域住民検診における有用性を検討してみました。


 このスライドは、高血圧性変化、動脈硬化性変化、糖尿病性変化など、眼底写真で得られる一般的な情報を示しています。

対象と方法
 安房地域では従来から住民検診時に眼底写真の撮影は行われており、今年度、6月上旬の8日間で行われたM町の検診において心電図同期眼底カメラを使用しました。検診受診者のうち、男性375名、女性471名の合計846名の撮影を行いました。このうち816名の受診者について解析が可能であり、撮影した眼底写真画像をコンピューターに取り込み、眼底血管の評価を行いました。

 評価の方法としては、従来から行われていたシャイエの分類で硬化性変化、高血圧性変化を各0〜4度に分類し、2度以上を病的変化と評価しました。
 硬化性変化の評価は、動静脈交叉部の静脈の先細り、静脈走行のずれ、血柱反射の増強を判定しました。
 高血圧性変化については動静脈(A/V)比によって評価しました、これはARIC Studyの方法に準拠した方法で行いました。


 このスライドは、交叉現象の判定基準を表しています。判定の原理は動脈硬化が進行すると、交叉部では静脈の天井部と動脈の床部分の共有された外膜に“引きつれ力”が加わり、さらに静脈内膜への“ずり応力”の変化も加わり、その結果、交叉部直下の静脈径が狭小化します。その狭小部と通常部の比を数値化し評価しました。

結果
 硬化性変化について病的変化は男性0.30、女性0.23の割合で現れ、高血圧性変化は男性0.45、女性0.36の割合で病的変化が現れ、ともに男性に多く変化が現れていました。

 また、今回の検診時データから、性、年齢、血圧、HbA1cによる多重ロジスティック回帰分析を行った結果、硬化性変化の要因には、性、年齢、血圧が残り、高血圧性変化には、性、年齢、HbA1cが要因として残りました。
 考察として、今回の検討は、試作機が完成したばかりで、単年でしか行っておりませんが、最近の論文によると眼底写真による高血圧変化は高血圧発症前から見られることが多いと言われ、眼底所見の経年変化を追うことで動脈硬化、高血圧の発症予防への応用が十分可能と考えられます。
 また、今後も心電図同期眼底カメラを使用出来るように話が進んでいますので、今後は他の要因との関連も含め検討していきたいと思います。


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資  料
高齢社会と認知症について   
 ―アルツハイマー型認知障害に関して−
加 藤 恵 一

Kye words: 
高齢社会、アルツハイマー型認知症、β-アミロイドタンパク、アミロイド前駆体タンパク質、ノーマライゼーション

 我が国の人口動態・将来推計をみると2006年には1億2774万人とピークを迎え、生産年齢人口比率(15〜64歳)の低下と共に老年人口比率(65歳以上)が上昇し、2050年にはその数値が35.3%に達するものとされ、益々の高齢化が進むことが確実視されている。死亡率と年齢との関係を表すゴンペルツ曲線
1)においても加齢に基づく身体の生理的退行変化が有病率を上昇させ、老年期での年齢特異的死亡率を増加させることを示している。剖検上、全身臓器の萎縮以外に原因を特定できず、特別な疾患によらない純粋なる老衰死は僅か4%以下2)といわれ、我々の多くは何らかの老年病と対峙することになる。なかでもアルツハイマー病などによる神経性疾患・認知障害患者が増えることが予想され、介護など様々な社会制度上の問題と合わせ危機的状況さえ感じられる。このうえは、更なる迅速な社会的対応並びに上記疾患の解明、治療法の確立など医学的な発展が急務となる。以下において、高齢社会とアルツハイマー型認知症に関して若干の論究を記述した。

1.脳の老化
 脳は個々の生理的・精神的なものを含むあらゆる行動様式の「自己」を規定しているものである。大脳に400億、高次の知的機能を司る大脳皮質だけでも約140億の神経細胞があり、その神経細胞の先端部分の軸索は800〜1000に枝分かれし、他の神経細胞上にある8000個以上ともいわれるシナプスに情報が伝達されてゆく。その情報量は膨大なものであり、ヒトは進化過程で遺伝子だけによらない大量の情報を蓄える方法として脳を発達させてきたものと考えられる。脳血液循環においても、毎分750ml、心拍出量の約15%にあたる血流が脳に送られ、酸素消費量も毎分50mlを消費する。これらの供給が滞れば脳の血液脳関門が崩壊し、意識障害、昏睡など重篤な機能障害を生ずる。脳は体重比がおよそ2.2%と小さいものの全身酸素消費量及び血糖消費量が多いことからも、心臓・肺などと並んで最もヴァイタルな臓器といわれる所以である。このような脳も加齢により身体的老化と同様、生理的現象として機能低下してゆく。その主な変化として神経細胞の脱落・損失、重量及び血流量の減少、脳波の変化、沈着物の増加などがあげられる。脳細胞の最大なる特徴は、体細胞と異なり分裂、増殖及び再生機能を有していないという点であり、このことが認知症及び脳神経性疾患の根本的成因となる。脳細胞は、20歳時には約140〜150億個あり、その後1日におよそ10万個が減少し、60歳代では15億個の損失となり、記憶・判断など知的判断機能を有する大脳皮質での神経細胞数は90歳代で約50%の減少がみられるといわれている。脳重量も一般的に老化により心臓以外の他臓器同様、萎縮などにより減少傾向を示す。成熟期を過ぎ加齢により脳の萎縮が進み、80歳を越えると55歳以前に比べ約10%の萎縮がみられ、60歳代と90歳代を比較すると男性では約5%、女性では7%近くの減少率があり、脳重量もその最大重量時に比して100〜150g減少する。これは大脳皮質及び、小脳や脳幹部の黒質での萎縮や神経細胞数の損失によるものと推察されている。脳の萎縮・重量の変化と知覚指数は必ずしも相関しないものの、老化した神経細胞では樹状突起の減少がみられ、この部分にある神経接合部が縮小し、神経ネットワーク不全となり、情報が伝わりにくくなるものと考えられている。また、脳血管では加齢により動脈硬化が始まり、脳循環血流量の変化がみられる。心臓より送られる血流のうち、脳が直接エネルギー源として利用するブドウ糖は身体全体の消費量の約25%にもなるといわれている。このことからも、加齢により脳循環血流量が減少すれば脳代謝・脳機能も低下することが考えられる。
3)、4)



2.高齢社会とアルツハイマー型認知症
 我が国では、1980年代に入り急激な少子高齢化が進み、寝たきり高齢者や認知障害高齢者が増加し、介護問題が表面化してきた。65歳以上の高齢者人口が総人口の7%を超える社会を「高齢化社会」、14%以上を「高齢社会」といい、すでに我が国では前者を1970年に、後者を1993年に超えており、今まさに【高齢社会】の真っ只中にあるといえる。介護保健制度が施行された2000年4月より2003年の間に高齢者増加率は12%約264万人であるのに比し、要介護認定を受けた高齢者は72%、約158万人増加しており、それは65歳以上の被保険者増加率の6倍になっている。また、認知症高齢者数(認知症老人自立度U以上)は、2002年には約150万人、2015年には約250万人、2025年には約300万人に達するものとされる。
5)
 認知症と診断された患者の原因別割合の論文集計では、56.3%
6)がアルツハイマー型認知症であるという報告から、この数値を我が国の総認知症高齢者数にあてはめてみるとアルツハイマー型認知症患者は、2015年には約140万人、2025年では約168万人と推計される。介護保険施設数においても(介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設)2002年では、11,661施設、定員数約72万4千人で前年比439施設、定員数約4万5千人増となっている。(*参考資料)もし現状のまま患者数が増え続ければ、2025年には自立度U以上の患者は約300万人となることから、この数値を2002年、自立度U以上で何らかの施設を使用している患者率約51%に照らし合わせると2025年には約153万人が施設を使用することになる。しかし、今後の大幅な施設増は難しいことが予想される。このように患者数の増加と共に介護サービスの利用者が激増し、それに付随して介護保険の給付費についても2000年には3.2兆円であったのに対し2004年には5.5兆円(予算)に達している。高齢社会へ対応する介護サービス制度の持続性を考えた時、財源並びに制度の問題は憂慮すべき最大のものとなっている。
 アルツハイマー型認知症は、アルツハイマー病とアルツハイマー型老年認知症との総称である。男性より女性の罹患率が高い大脳の変性疾患であり神経細胞の脱落・変性を生じ大脳皮質の萎縮及び脳室の拡大が認められる。また、アルツハイマー病の中には遺伝性、家族性に発症するものがある。アミロイド前駆体タンパク(以下APP)遺伝子の点変異やプレセリン1・2遺伝子異常、さらには弧発性アルツハイマー病でも出現頻度が高いとされるアポリポタンパクEが認知症の危険因子といわれている。
4)アルツハイマー病の経過は通常、進行度により初期(2〜3年)、中期(2〜3年)、末期の3期に分類される。ADL(Activities of Daily living)の障害度と知的能力からもFAST(Functional Assessment Staging)とよばれる正常老化を含めて1〜7の詳細なステージ分類があり、ゆっくりと各ステージの症状が進行する慢性の難病である。6)



3.アルツハイマー型認知症への医学的対応
 器質性認知障害は、脳血管性のものとアルツハイマー型でその大半を占めている。アルツハイマー病は進行性の認知障害と記憶低下を特徴とする神経性疾患である。病理学的には、神経細胞の脱落と脳細胞内にたまる神経原繊維変化を構成するリン酸化タウタンパク質の蓄積及びアミロイドβ―タンパク質(以下Aβ)を主成分とする老人斑の出現がある。タンパク質は多数の形状を作ることが可能であるが、特有の三次構造を取ることで生理活性を持つこととなる。しかし、老化によりタンパク質合成の低下や分解速度が遅くなり、代謝機能の低下・変化などのため変異タンパク質が蓄積してくる。これらのことと同様に脳内Aβの集合・形成が老化に伴い生じてくることが考えられる。アルツハイマー型認知症の場合このAβと呼ばれる40〜42のアミノ酸よりなる小ペプチドが大脳皮質に沈着する。そのまわりを活性化したアストロサイトやミクログリアといったグリア細胞(散在している神経細胞の隙間を支持組織としての機能や、神経細胞が破壊された時に補填する役割を果たす)が集積し、活性酸素による酸化的ストレスを生じる。
7)元来、脳はカテコールアミンなど酸化されやすい物質が多くあり、フリーラジカルを発生しやすく、これら酸化的ストレスによって神経細胞やシナプス機能の低下、リン酸化などの情報伝達異常が起こるものとして、認知機能障害要因の一つにこの活性酸素が挙げられている。8)
 Aβは、C末端の違いによりAβ40とAβ42の分子種があり、
9)家族性アルツハイマー病では凝集性の強いAβ42の産生増加が発症に関与するといわれている。10)この老人斑の出現並びにAβ量や繊維化の増加は認知障害症状とは必ずしも相関せず、Aβが神経細胞死を獲得するには、特定の構造を取った時であり、それはAβ42の方がより強いという。Aβは神経毒性を持つため、認知症の発症に重要な役割を果たすといわれている。その神経毒性を発現するには自己会合が必要とも考えられており、星らは、11)Aβの様々な重合体から神経毒性を担う構造として「アミロスフェロイド」を特定している。
 弧発性アルツハイマー病では主にAβの分解系の異常が原因と推察され、城谷らは、
10)プロテアーゼであるネプライシンに着目して、ネプライシン欠損マウスを作製した。この欠損マウスは野生型マウスに比べ、明らかにAβ42分解能が低下していることを示し、他のプロテアーゼに考慮しつつも脳内Aβ量の制御系におけるネプライシンの重要性を示唆している。β-アミロイド仮説では、アミロイド前駆体タンパク質(以下APP)のプロセシングによってつくられるAβの産生と分解のバランスがくずれ長期に渡って脳内に沈着することにより神経細胞の機能低下、損失が起こるとされている。そこで生理的ペプチドとして産生されるAβも含めたAβ生成を抑制する方法として、APPが -セクレターゼにより切断されることによって沈着性Aβがつくられる元となるため、β-セクレターゼ阻害剤を使用する方法やアセチルコリン系の機能を賦活させることを目的としたアセチルコリン分解酵素阻害剤が開発されてきた。また、アルツハイマー発症とコレステロール代謝との関係において、Aβの産生が高コレステロール環境下で促進されるというものや関与を示す報告がある。13)高コレステロール食の実験動物モデルにおけるアルツハイマー症病理変化の形成促進、コレステロール輸送の役割を果たすアポリポタンパクEとアルツハイマー発症の関係、高コレステロール血症患者に使用される生合成系阻害剤であるスタチン服用者のアルツハイマー発症抑制など中枢神経におけるコレステロール代謝は血液脳関門に隔てられた閉鎖系であることを含めた検討の必要性を示している。さらに、ヒト変異APP遺伝子を過剰発現させたトランスジェニックマウスでは、脳内にAβの沈着、老人斑の形成がみられる。これらのマウスを使いAβワクチンを投与しAβに対する抗体を産生し、脳内のAβ老人斑を消失させる方法や直接抗Aβ抗体を投与することによりアルツハイマー病治療に関する免疫学的方法もトライアルされている。14)ヒトへの副作用7)や抗体そのものが血液脳関門を通過するかなど検討の余地があるとされるが、Aβワクチン療法も今後に期待されるところである。



考  案
 保健・医療・福祉関係者の中でも、65歳以上で最も多い認知症の原因となるアルツハイマー病についての認識は概して充分なものではないといわれている。アルツハイマー病根治的治療法の確立には、アルツハイマー病で発生する神経細胞死の分子メカニズムやA 蓄積原因を解明することであり、そのことが記憶力・認知能力をコントロールし、明確な診断に結びつく。しかし、現状のアルツハイマー病診断に際しては、他臓器障害のように血液中などに疾患マーカーとなりうる有用なものがないため、脳萎縮をみるMRI、CT等及び症状の経過から脳血管性認知症とを区別し、うつ病、意識障害、せん妄や良性健忘症を除外してアルツハイマー病を推定している。
 アルツハイマーによる認知症は、患者本人だけでなく介護をする側の人達にとっても大きな問題となる(どこで、誰が、どのような方法で介護をするかなど)。患者を含めたその何倍かの家族、介護をする人達が経済的、精神的重圧などの問題と向き合っているといえる。元来、我が国の老人を対象とした関連福祉対策の主なものとしては、1963年に老人の人権を保障するというコンセンサスのもとに老人福祉法が成立し、1973年には高齢者医療の無料化、その後、老人医療費の高騰により1982年にこれを改正、1989年には福祉推進介護サービスを主とした10年戦略のゴールドプラン策定、1994年にはこの考えをさらに進めた新ゴールドプラン、1997年介護保険法が成立し、2000年には介護を必要とする高齢者を国民全体で支えていこうとする介護保険制度が導入された。このようなもと、高齢者介護の背景として社会情勢並びに家族環境の変化などが高齢者への介護支援の必要性をもたらし、様々な福祉ニーズを生み出してきた。しかし、現在の介護サービスは実際に現場で介護にあたる専門員数の不足や特別養護老人ホーム、介護老人保健施設などの不足からであろう入所待機の患者も多く、利用負担の不平等感がある。介護の質や標準化の問題、さらには居宅介護における主たる介護者が60歳以上という場合も多く、いわゆる「老老介護」や常なる経済的問題もある。このような事からも今後、増加するであろう認知症患者の要介護に応じた適切なサービスの提供の場がより以上に求められている。また、要介護の軽度な患者が短期間に重度化することが多いという報告もあり、プライマリーな時期での適切な介護・ケアが悪化を防ぐ上で重要なことが推察される。脳に生じるA の蓄積を抑える薬は、まだ実用化されておらず動物実験等で蓄積抑制剤、溶解薬、A のワクチンなどの研究が盛んに実施されている。抗認知症薬としては、アルツハイマー病に対して塩酸ドネペジル(アリセプト)が認知症を遅らせることを目的として使用されるようになった。しかし、アルツハイマー病自体の進行により薬効も少なくなるため、軽度認知障害を正確に把握し医学的に早期の対応が認知症患者本人及び介護者にとって有益なものとなる。


文  献
1)折茂 肇(編):老化と老化現象.新老年学,第2刷,3〜19,東京大学出版,東京,1992
2)安藤 進:脳の可塑性は老化研究のターゲットになるか.基礎老化研究 26巻1号:24,2002
3)中野昭一(編):脳循環.図解生理学,第1版,第11刷,120〜121,医学書院,東京,1992
4)小川紀雄:脳の老化と病気.正常な老化からアルツハイマー病まで,ブルーバックスB-1244,第1刷,30〜42,講談社,東京,1999
5)寺本尚美:痴呆性高齢者に対するフォーマルケア.痴呆ケアにおける社会資源,第1版,第3刷,39〜40,日本痴呆ケア学会,東京,2004
6)本間 昭:痴呆性高齢者の現状.痴呆ケアの基礎,第1版,第4刷,31〜35,日本痴呆ケア学会,東京,2005
7)石浦章一,服部千夏:アルツハイマー病の治療戦略.蛋白質 核酸 酵素 49巻14号:2179〜2185,2004
8)福井浩二,他:酸化的ストレスおよび老化による認識機能障害について.基礎老化研究27巻1号:41〜44,2003
9)渡邊 淳,田平 武:アルツハイマー病.Molecular Medicine Vol.38 No.11:1228〜1234,2001
10)城谷圭朗,西道隆臣:脳内のアミロイド タンパク質はネプライシンで分解される−アルツハイマー病発症との関連―.Molecular Medicine Vol.38 No.7:814〜816,2001
11)星 美奈子:新規毒性物質「アミロスフェロイド」の形成と神経細胞死〜アルツハイマー病発症における神経細胞死の解明に向けて〜.生化学 第76巻第7号:631〜639,2004
12)黒田洋一郎:異常蓄積物からの追求.ボケの原因を探る,岩波新書,第1刷,54〜58,岩波書店,東京,1992
13)柳澤勝彦:アルツハイマー病とコレステロール.生化学 第74巻第6号:455〜460,2002
14)原 英夫:AAV(アデノ随伴ウィルスベクター)を用いたアルツハイマー病に対する経口ワクチン療法の開発.基礎老化研究 27巻2号:68,2003

参考資料
*厚生労働省官房統計情報社会統計課介護統計第1・2・3係:平成14年介護サービス施設・事業所調査結果速報(概要),介護保険施設の状況,平成15年6月10日

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施設紹介

組合立 国保成東病院


 千臨技会誌の施設訪問先として、今回は6月30日に「組合立国保成東病院」を訪ねさせていただきました。成東病院は地域住民の医療確保の為、成東町ほか23町村による病院組合の設立により、昭和28年に3科病床51床から開院されたそうです。その後、幾度かの診療科の充実や増改築を経て、平成4年に350床となり、現在に至っているそうです。場所は、JR成東駅から歩いて10分程の田園に位置しています。そして現在では7市町村(東金市、九十九里町、成東町、山武町、松尾町、芝山町、蓮沼村)の組合立病院となっているそうです。
 検査科は全ての部署が、2階に位置していました。今回案内していただいたのは、この春退官された山本洋子前科長から引継がれた関屋 等科長です。検査科は現在13名で構成されており、日当直体制も365日とられているそうです。余談ですが山武郡管内では、夜間二次救急輪番制が実施されており、成東病院の当番が月の半分になるそうです。
 はじめに、検体検査部門に伺いました。検体検査部門は、8名で構成されているそうです。入り口が検体受付及び採血室になっていて、奥に生化学、血液、免疫、輸血、一般検査のフロアがひろがっていました。同じフロアに扉で隔てて、細菌室が位置していました。外来採血は平成3年より、あわせて診察前検査の実施も開始されたそうです。そして現在では、その診察前検査のための機器の立ち上げのために7:30に一名出勤し、外来採血も8:00から開始するそうです。小児科の採血は小児科でということが多いようですが、成東病院では、全科の外来採血を検査科が担当しているそうです。伺ったときも、小児科から幼児の患者が採血にきましたが、泣き叫ぶ子供をうまくあやしつつ、採血していました。
 成東病院では、検査システムの導入が早くから行われており、昭和57年にはすでに検査科内に情報処理装置が導入されていたそうです。平成4年には外来オーダリングが稼動して検査の結果が、各外来診療科でプリントアウトされるようになり、平成11年度からは、病棟もオーダリングが開始されたそうです。主な使用機器ですが、日立7170・7070(時間外)、アークレイGA1170・HA8160・AX4280、ダイナボットAXSYM・ARCHITEKT・TDX、シスメックスSF3000・CA550等を使用なさっているそうです。
 次に、病理部門に伺いました。病理部門は2名で構成されていました。2人の方はどちらもスクリーナーの資格を持っておられるそうで、細胞診と病理の業務を一週間交替で行っているそうです。ただ、病理医が1週間に一回しか来られないそうで、至急に結果を知りたい場合は、外注検査に出すということでした。病理検査室は手術室と扉一枚隔てて位置していて、手術材料の受け渡しに非常に便利なようでした。
 最後に生理部門に伺いました。生理検査室は3名で構成されていて、集中しがちな午前中は受付のパートの方も居られるということでした。心電図、ホルター心電図、呼吸機能、脳波、超音波検査等を実施しているそうです。人間ドックもおこなっているので、心電図や腹部超音波検査をある一定時間内に、多人数の検査こなさなければならないのが、大変ということでした。そのため、心電図のベッドの配置に工夫をしているそうです。印象に残ったのは、超音波の通常のゼリーボトルでは少しづつしか出ないので、カップからへらですくって患者さんに塗るということでした。数をこなさければならないということと、見逃しをしてはならないという間で、大変な業務だと思いました。
 ただ検査室にこもっているだけでなく、積極的にチーム医療に参加されているようでした。糖尿病療養指導士の資格を持たれている方が一名いて、糖尿病療養指導チームの一員として、教育入院中の患者さんへの教室で、SMBGの管理の話など1週間に2時間ほど時間を持っているそうです。また、心臓カテーテル検査時にはモニター監視や、各圧測定、介助のため検査技師が一名参加しているそうです。
 関屋科長は、「これと言って特徴の無い検査室です」とご謙遜なさっていましたが、訪問させて頂いて、「診療側の要望にすぐに答えられ、大きな病院の検査室にはないこまわりが利き、病院の一部となっている検査室」といった印象をうけました。
 お忙しいところ、快く取材させていただいた関屋 等科長をはじめ、検査科の皆様ありがとうございました。
(福田 憲一、鷲津 正裕)


   

   

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