千臨技会誌 2011 No.1 通巻111

みて見て診よう 超音波検査をみて,見て,診よう(6) 成田赤十字病院 検査部 生理検査課
    浅 野 幸 宏,長谷川 雄 一
施設紹介 帝京大学ちば総合医療センター          
研究班紹介 微生物検査研究班紹介 千葉市立海浜病院
            静 野 健 一



みて見て診よう!
超音波検査をみて,見て,診よう(6)
成田赤十字病院 検査部 生理検査課

 浅 野 幸 宏,長谷川 雄 一


 この稿を書くにあたっては,私が尊敬する検査技師の一人である旭中央病院の関根智紀氏から引き継ぐことにプレッシャーを感じながら,私なりに生理検査研究班長などの経験を生かし,会員諸氏に少しでもお役に立てるようなものにできれば・・・と思い書いております.初回は,私が主に従事している超音波検査を取り上げてみました.

◆超音波検査をみてみよう
 数年前の日本医学検査学会で,生理検査各領域についての教育を考えるシンポジウムがあった.シンポジストの打ち合わせ時に,「超音波検査は生理検査の中でも花形だからね!」と言われた記憶がある.確かに患者様を相手にカルテから種々のデータを参考にし,さらに自分で装置を操作して得た画像から疾患を推測,場合によってはCTなどの画像検査結果を参照し,最終的な所見を書くまでの一連の流れが他の検査には無いからだろう.日々ルーチン検査を何気なく行っていると見過ごしがちな・・・ここに落とし穴は無いのだろうか?超音波検査を見てみよう!

◆超音波検査を見てみよう
 腹部・心臓・表在・血管など全身が対象となる超音波検査は,今や欠かすことのできない検査法のひとつであり,画像診断における確固たる地位を築いているのは周知の通りである.非侵襲的という特質やその簡便さから臨床上の有用性を語られることもあるが,本当にそうなのであろうか?賢明な諸氏はお気付きであろうが,超音波検査は検査を行う者により結果が左右される「術者依存の検査」であり,検査者によって結果は変わるといっても過言ではない.こんな超音波検査を診てみよう!

◆超音波検査を診てみよう
 超音波検査に関する私見をやや辛口に書き始めてみたが,要するに超音波検査に従事する者の教育環境が充実し,皆が検査法を熟知していればこの様な問題も解消されるのではないか.しかし,現状においてはスタッフの資質によるものや職場の事情もあり簡単に解決できない問題であろう.ここで立ち止まっては何もならないので,ひとつの方法として超音波検査教育について考えてみたい.

その1.超音波の基礎を理解しよう
 基本的なことであるが,これが一番の壁であるのも事実である.超音波画像を理解する上では欠かせない知識であり,相応な努力が必要になってくる.推奨されるのは,目標を設定しその目標に向かって学習していくことである.超音波検査士受験を当面の目標としてはどうだろうか?
もちろんどんな資格であれ合格がゴールではなく,あくまでスタートラインについたと考えてもらいたい.

その2.装置の取り扱いに精通しよう
 診断装置の技術革新はめざましく,種々のアプリケーションも付加されてくる.これら各々の特性を理解して,正しく使用することにより診断に寄与することができる.超音波の原理をある程度理解した上で,装置の能力を十二分に引き出せる使い方をしなければならない.熟練者の撮った画像と初心者の画像とでは,同じ装置を使ったと思えないほどの差が出てくるものである.いかに装置を使いこなし,客観的で説得力のある画像を得ていくためには必須のものである.上級者の装置の扱いを後ろでみながら,あるいはメーカー担当者に積極的に教わるなど日々の研鑽が大切になってくる.

その3.解剖知識はしっかりと身に付けよう
 臨床検査技師として常識的な解剖知識に加え,超音波解剖すなわち画像診断における解剖知識が必須である.これは,超音波に限らず他のモダリティー(胸腹部X線,CT等)を読影する際にも必要になる.一般書籍で学習後,臨床現場では常に超音波画像と対比できる知識を養うために,繰り返し得られた超音波像と比較する習慣を身に付ける.

その4.病態生理を理解しよう
 個別の疾患知識は言うまでもないが,臨床検査全般に対する幅広い知識の上に成り立つものと考えられる.したがって,超音波検査にこだわらず平素より各臨床検査項目について,検査目的や方法,正常値(像)や異常値(像)についても学習しておく必要がある.これら基礎知識のもとに,病態生理を合わせて理解することにより,症状に対する疾患と鑑別していかなければならない疾患が,ディシジョンツリーのごとく頭の中で広がっていくことができる.

その5.常にステップアップの心構えでいよう
 各領域における基本断層像の描出が確実にできることを確認したのち,いわゆるスクリーニング患者を中心に上級者(超音波検査士取得者が望ましい)とともに臨床トレーニングを開始する.指導的介入をしながら,数十例数百例と経験を積み重ねていく.指導者となる者は中途半端な知識で臨まないこと.教えられる側(最終的には患者様)が迷惑を被る.最終目標は,急性腹症などの緊急処置を要する患者様に対しても迅速な対応,正確な検査報告が常にできることである.本人の資質(これが一番!)にもよるが,専属的に超音波検査に従事していくことが困難であることも含めれば,ここに至るまでには数年かかるのが現状であろう.また自分の所見を検証することを心がけよう.例えば,CT・内視鏡・手術等で診断された結果に対して,超音波所見と照らし合わせて読影できた点,できなかった点を明らかにし,その疾患に対する超音波検査の役割,どのような情報が大切であったかなどを再認識する.この繰り返しが大切であり,今後の検査に必ず役立ってくる.


◆おわりに
 初回から辛口意見?になった感もありますが,他施設の管理職の方々にお会いすると「最近の若い者は・・・」と,私もすでにその年齢層に達してしまったかという焦燥感にもまして,どうして教育をしていけば良いのか?どうしてやる気を持たせれば良いのか?・・・皆さん考えていることは同じ様で共通の大きな課題と認識しました.今回は超音波検査の教育について触れてみましたが,これを理想論に終わらせないで,如何にして推し進めていくかが私共の責務と考えます.

超音波像は,すべて右総頚動脈縦断像です.

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施設紹介
帝京大学ちば総合医療センター

 12月を目前にした小春日和の午後,姉ヶ崎駅を出発し東へ・・・.姉崎の田園風景を眺めながらしばらく走ると帝京大学ちば総合医療センターが見えてきました.駐車場から正面玄関を目指していると,ヘリポートからドクターヘリが飛び立とうとしているところでした.(テレビのワンシーンのようでした.)
 木村豊副技師長をたずねてお話を伺いました.病床数は517床,診療科は18科あり1日あたりの平均在来患者数は約1,000人だそうです.検査技師の勤務する検査部と病理部は本館2階,健診センターは新館6階にありました.検査部は検体検査部門に11名(SRL社員8名を含む),生理機能検査部門に16名(事務員1名を含む),輸血検査部門に7名,病理部に7名が勤務されています.検体検査部門と輸血検査部門は24時間体制で,検体検査部門と輸血検査部門から1名ずつ当直しているそうです.

生理機能検査部門
 木村豊副技師長にお話を伺いました.
 生理機能検査部門は可能な検査項目については予約制ではなく,必要なときに迅速に結果を返せるように運用しているそうです.2009年からは生理機能検査システム(Hi−Medion フクダ電子)を導入し業務の効率化や臨床への報告がスムーズになったそうです.ワンフロアに心電図,呼吸機能,超音波が配置されていました.超音波(腹部,乳腺,甲状腺,心臓,血管)のルーチンは技師が行っていて,研修医に教えることもあるそうです.脳波,筋電図は別室にありました.脳波は判読するときに紙のほうが見やすいということで,ペーパーレスにはならなかったそうです.神経伝導速度と誘発電位の検査も行い,脳外科の手術中に呼ばれることもあるそうです.また,耳鼻科外来で行っている聴力の検査のために,技師2名が常駐しているそうです,その他,1日に15〜20人ほどの人間ドッグを行っている健診センターにも2名の技師が常駐し,心電図,超音波,呼吸機能,検査データの取り込みと報告書の出力,時には採血も行っているそうです.
【頸動脈超音波で作業する林技師】
【生理機能検査部門の皆様】
後列左から高志技師.木村副技師長.角桂技師
前列左から林技師.小川技師
【筋電計操作中の山田技師】
【脳波検査室で作業中の高木技師】

検体検査部門
 木全淳一郎係長からお話を伺いました.
検体検査部門では,血液一般,生化学,一般,免疫,血液ガス,緊急検査を担当し,ワンフロアにすべての機器が設置されています.ここはSRLがブランチで入っていて,病院職員とSRL職員が一丸となって検査業務を行っているそうです.平日は1名当直者が残るそうですが,休日は朝から翌日の朝までの24時間勤務となるそうです.日中の勤務時間内,検査機器は止まることがほとんど無く,緊急検体が次々と測定されているようです.(忙しい時間帯にお邪魔してしまい,申し訳ありませんでした・・・.集合写真を撮る時間もないほどお忙しそうでした.)夜間緊急用には血算(Sysmex XE-2100),凝固(CA-500),生化学(BM6050)の機器が整備されていました.また,血液内科の備品のようですが,骨髄像観察用に42インチのモニターが顕微鏡に接続されていて,先生方とのディスカッションに使用しているそうです.細菌検査は外注に出しているそうですが,感染管理に必要な資料は木全係長が検査結果からひろいだして作成し、JANIS(厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業)のサーベイランスにも参加しているそうです。

【検体検査部門で検査中の藤田技師】
【血液凝固装置Sysmex CA8000.CA-500と
作業中の八塚技師】
【BM6050操作中の藤田技師】
【骨髄像観察用モニターと木全係長】

病理部門(病理部,中央電子顕微鏡室,フォトセンター)
 病理部 小山芳徳係長からお話を伺いました.

 病理部門は検査部とは別個の部署である病理部,中央電子顕微鏡室,フォトセンターの3部署の連携で行われ,石田康生教授が3部署の所属長を兼任しています.病理専門医である山ア一人准教授は病理部の職務につき,なおかつ検査部の副部長を兼務しています.病理部のスタッフは細胞検査士を含む臨床検査技師が7名,中央電子顕微鏡室は臨床検査技師1名と非常勤が1名,フォトセンターは写真技師1名と非常勤が1名です.
 病理部の主な業務は,細胞診,生検および手術標本の病理組織診断,術中迅速病理診断,病理解剖であり,電子カルテシステムに接続された病理支援システムによって,受付〜報告されています.このほか術前,術後,解剖例など,臨床各科とのカンファレンスを通じて,診断や治療方針に関する検討を行っています.
 近年では,診断目的での免疫染色のみならず,FISH法,K-rasやEGFR遺伝子解析などの分子病理学的検査が,分子標的薬治療の選択に際しても行われるようになっています.患者さまお一人お一人の正確な診断を行うと共に,診断法の開発,診断や治療の根本となる病気の成り立ちの解明,研修医への指導など医学教育にも取り組んでいます.
 大学病院病理部門として,スタッフ皆様のご活躍を期待しています.

【左:ハイブリダイザー
右:遺伝子増幅装置サーマルサイクラー】
【遺伝子解析装置シークエンサー】
【細胞診鏡検中の安達技師と鈴木技師】
【病理部の皆様】
左から石田教授,山棟y教授,豊永技師,鈴木技師
安達技師,小山係長,本間技師,渡邉技師はお休み

輸血部門(輸血検査室,採血室)
 輸血検査室 山本喜則技師, 関川秀義技師からお話を伺いました.輸血部門の業務は輸血検査室,採血室の2部署の連携で行われ,スタッフは臨床検査技師が7名で行われています.そのうち1名(山本喜則技師)を輸血専属とし,6名で採血業務を日に3名ずつローテーションで行っています.輸血検査室の2009年実績より検査関連は,血液型検査6389件,不規則抗体スクリーニング4291件,直接クームス試験141件,使用製剤は赤血球製剤4265単位,血漿製剤2074単位,血小板製剤4825単位,アルブミン18737.5g・この他,自己血採血補助・分離作業,末梢血幹細胞採取,骨髄濃縮作業,白血球採取等,多岐に亘った業務になります.輸血部門はこれに加え,当直業務(夜間帯1名)も行っております.
 採血は8:00〜17:00まで行われており,2009年実績では,採血数48332件,出血時間2943件の他,病棟採血管の準備も行っているとのことでした.取材当日(11月29日 月曜日16:00現在)の採血状況は下図に示す通りです.午前中に170名と集中しかなり忙しい状況が窺えます.
 輸血・採血・当直と忙しく,精神的にもストレスのたまりやすい業務かと思いますが千葉県の中核を担う輸血部門として益々のご活躍を期待します.

【取材当日の採血状況】
【輸血検査室にて説明をする山本喜則技師】
【採血室受付に立つ長谷技師】
【採血室にて説明をする関川秀義技師】




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研究班紹介

微生物検査研究班紹介
千葉市立海浜病院  静 野 健 一

 微生物検査研究班は高橋弘志班長(国保君津中央病院)を中心に9名のメンバーで活動しています.主な活動内容は精度管理事業の他,年間4回の研修会(1回は一泊研修会)を企画しています.
 近年実施した精度管理事業の内容は,重要性が再認識されているグラム染色について各施設の技術を確認し,また,病院内感染対策上重要な耐性菌を正しく判定するため,薬剤感受性検査の正確性を確認する内容などを行いました.「グラム染色」と一言でいっても様々な方法・試薬があり,さらに技師の技術によって随分と結果がばらついてしまうと言われますが,精度管理の結果を通じてそのことをあらためて強く感じます.迅速な報告が行える一方,臨床医の治療方針に大きく関わる検査であるため,精度管理試料の染色結果が悪い施設には直接指導することを検討しています.
 研修会は年間3回の半日程度のものと,一泊研修会を1回行いますが,この他にも関東甲信地区の一泊研修会が毎年各都県の持ち回りで開催されます.また,医師が主催する研修会・勉強会も多数開催されるため,毎月何かしらの研修会が開催されているように感じます.ちなみに今年度の関東甲信地区の一泊研修会は千葉県が担当県でした. 「抗酸菌感染症の撲滅を目指して」というテーマで新習志野の幕張セミナーハウスで開催したところ,160人を超える参加者が集まりました. 幕張セミナーハウスを利用するのは初めてでしたが,駅から近く値段も手頃である一方, ナイトセミナー用の会議室も用意できるなど,あまり知られていないかもしれませんが使いやすい施設でした.
 私は微生物検査を担当してまだ数年しかたっていませんが,研修会や意見交換会(飲み会を含む),また研究班の手伝いなどを通じて各施設の方々の意見を聞き,検査方法がそれぞれの施設で違っていることに非常に興味を持っています.一つの検査材料に対する培地の組み合わせも実にさまざまです.先ほど例にあげたグラム染色と同じように,例えば「ヒツジ血液寒天培地」といってもメーカーによって菌の発育の特徴が異なり,さらには一つのメーカーで少しずつ組成を変えて複数の種類を販売している場合もあります.複数枚の培地を使用する便などは,特に施設によって組み合わせが様々です.それぞれの施設で検査を行う患者の傾向はことなる場合もあるため,すべての施設で同じ培地を,とまでは考えていませんが,自施設で使ったことのない培地の特徴などを交換し合うことで,より質の高い微生物検査が行えるのではないかと感じています.
 ・・・研究班紹介から話がそれてしまいましたが,微生物検査を行っていてこのように疑問や不思議に思う事などはたくさんあると思います.それらを一つ一つ解決し改善していくことは,自分のためでもありますしそれ以上に患者さんのためになるのではないでしょうか.ぜひどんな些細な疑問でも,近くの班員に持ちかけて共有させていただければと思います.よろしくお願いいたします.